第17章「目覚め」

白い天井が、見えた。


 洗一は、ゆっくりと目を開けた。


 柔らかい寝具。清潔な匂い。窓から差し込む、暖かい光。


「ここは——」


「王都の治療院だ」


 声がして、振り向くと——ガルディスが、椅子に座っていた。


「お前は——二週間、眠り続けていた」


「二週間——」


 洗一は、自分の体を確認した。


 動く。


 体中が、だるいが——生きている。


「勇者たちは——」


「全員、無事だ。お前が穢染公を倒した後、城を制圧した。魔王軍の残党は——散り散りになって逃げた」


「そうか——」


 洗一は、安堵のため息をついた。


「清浄亭は——」


「お前の弟子たちが——しっかりと守っている」


 ガルディスは、かすかに笑った。


「セラという娘——立派なものだ。お前がいない間、一人で店を切り盛りしていた」


「そうか——」


 洗一の目に、涙が浮かんだ。


「よかった——」


 回復には、さらに一週間かかった。


 その間、多くの人が見舞いに来た。


 アルベルトたち勇者パーティ。ハルトマン大佐。ハインリヒ領主。


 そして——


「セイイチさん——!」


 セラが、駆け込んできた。


 その顔には、涙が流れていた。


「馬鹿——馬鹿——! どれだけ——心配したと——」


「すまない——」


「謝らないでください——! 約束したじゃないですか——必ず帰るって——」


「ああ。帰ってきた」


 洗一は、セラの頭を撫でた。


「約束通り——だろ」


 一ヶ月後、洗一は清浄亭に戻った。


 店の前には——多くの人が、集まっていた。


 常連客。冒険者ギルドのリーナ。鍛冶師のゴルド。孤児院の子供たち。


「おかえりなさい——!」


 歓声が、上がった。


 洗一は——言葉が出なかった。


 こんなにも——多くの人が、俺の帰りを待っていてくれた。


「……ただいま」


 ようやく、それだけを、言った。


 店内では、セラたちが出迎えてくれた。


「セイイチさん、おかえりなさい」


 セラの顔には、涙と——誇りが、混じっていた。


「留守中——ちゃんと、やれました」


「見ればわかる。店は——綺麗だ」


 洗一は、作業場を見回した。


 整然と並んだ道具。清潔な水槽。きちんと管理された在庫。


「よくやった」


 その言葉に、セラの目から——新たな涙がこぼれた。


「ありがとう——ございます——」


 夜、洗一は一人で店に残っていた。


 窓から、夜空を見上げていた。


 穢染公を倒した。


 だが——魔王は、まだいる。


 穢れの根源は——まだ、滅んでいない。


 これからも——戦いは、続く。


 だが——


 今日だけは——休もう。


 洗一は、そう思った。


 明日から——また、仕事だ。


 汚れを落とす。穢れを落とす。


 一着ずつ。一人ずつ。


 それが——俺の仕事だ。


 翌朝、洗一は——いつも通りに、起きた。


 水槽の水を入れ替え、作業場の掃除をする。


 そして——


「いらっしゃいませ」


 最初の客を、迎えた。


 日常が——戻ってきた。


【第17章・了】

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