Last Witches 5
「そろそろ時間ね。佳蘭ちゃんが戻って来るわ」
その言葉に慌てて時間を確認すると待ち合わせの十分前。噂をすればなんとやら。リビングのドアが開き佳蘭が顔を出す。
「もういたのね。高戸のことだから時間ギリギリに来ると思っていたんだけど」
「うっせーな。たまには早く来ることだってあるわ」
「たまにはじゃなくて毎回来なさい。まったくもう……」
あきれたように首を振る佳蘭に少しだけ気が軽くなる。さっきまでの話があったから開口一番の皮肉がありがたかった。とはいえムカついたのも事実だが。
「わたしの部屋に案内するわ。ついて来てちょうだい」
「あいよ」
ガバッとソファから立ち上がり、おまけに残ったアイスティーを一気に呷る。佳蘭が来た以上もうここに用はない。
「うまかったぜ。ご馳走さん」
「またおしゃべりしましょうね、高戸くん」
さっきまでと打って変わってニコニコ顔で手を振る佳蘭の母親。それを無視するように俺は佳蘭の後についてリビングを出た。階段を昇り佳蘭の部屋に通される。古めかしい本が並ぶ大きな本棚があるくらいの、女にしちゃかなり地味な部屋だ。佳蘭はベッドに、俺は適当にあった椅子に座る。
「ここまで呼び出して悪かったわね。今ちょっと手が離せなくて」
「あの白い影についてなにかわかったのか?」
「ダメね。今おばあさまの残した書物を漁ってるのだけど、正直成果は得られそうにないわ」
やっぱりそうか。残念そうに首を振る佳蘭に何も思わない。そもそも簡単に糸口が掴めるようならあの時の佳蘭の発狂はない。
「そういや聞いていいか?」
「いきなりなに? わたしに答えられることならいいわよ」
「お前の婆さんてどんな人だったんだ? お前と同じ魔女だったんだろ?」
「そうね。おばあさまはLast Witchesと呼ばれた最後の魔女。そしてわたしの師よ」
佳蘭の視線が勉強机に向けられ、釣られるようにそっちを見る。そこには一枚の写真立て。ガキの頃の佳蘭と一緒に、金髪碧眼の婆さんが写っていた。年のわりにピンと伸びた背筋。昔ながらの品の良さそうなバアさんで、どことなく生真面目さと性格のキツさが滲み出ている。俺がニガテなタイプ。
「それにしてもラストウィッチーズ、ねぇ。最後の魔女なのに複数形はおかしくねーか?」
「おかしくないわよ。最後の世代の魔女って意味なのだから」
「あー。なーる」
確かに魔女が佳蘭の婆さん一人だけってのもおかしな話だ。言われてみれば納得出来る内容だった。
「それにしても。結局魔女ってなんなんだ?」
「そうね。一度その辺りのことを話しておくのも悪くないわね」
そう言って佳蘭は顎に手を当て思考を整理するように考え込む。佳蘭の母親と話していて浮かんだ魔女という概念についての疑問。流石の俺も魔女という言葉の意味くらいはわかる。ただその意味が広すぎていまいちはっきりとしない。佳蘭がなにが出来てなにが出来ないのか、ここで一度整理しておきたかった。
「呪いと同じよ。一つの言葉でも多くの意味を持つ。だからここだけの、わたしにとっての定義よ。それでもいい?」
「むしろそれでいい。頼むわ」
「わかったわ。……そうね。魔女を一言で表現するなら異教の巫女かしら。神社にいる巫女さんが高戸にとって一番イメージしやすいんじゃない?」
「いやいや。巫女さんと魔女じゃ正反対だろ」
神社の巫女さんていや神聖なイメージ。対する魔女は悪としての側面が強い。どう考えたって繋がらない。
「あら。そうでもないわよ。異教のって言ったでしょう。崇拝しているのが悪魔だったら納得出来るはずよ」
「あー。それなら納得できるわ」
ようは信仰の対象が邪神や悪魔だったってことか。それなら魔女のイメージと確かに合う。とはいえ——。
「なんだってそんなモン信仰するんだか。思春期の悪ぶったガキじゃあるまいし」
「悪魔といってもそれは一つの側面から見た話よ。正義も裏返せば悪になるように、悪魔も別の地域では神として祀られているものだったりするわ。例えばそうね。ベルゼバブは知っているかしら」
「聞いたことがあるな。確か蠅の王だったか?」
俺がやってるソシャゲにも出ているから知ってるっちゃ知ってる。高レアリティでイラストも凝ってたから、そこそこ高位の悪魔なんだろう。それと蠅の王って異名ぐらいしか正直知らん。
「サタンに次ぐとされるほどの大悪魔よ。ただそれは貶められた姿。元はバアル・ゼブルという名前で嵐を司る豊穣神だった」
「へぇ。そんな神様が、なんでまた悪魔になっちまったんだ?」
「一神教の影響ね。ここでその是非を語るつもりはないわ。勝者こそが正義。裏を返せば敗者は悪になるわ。一神教にとって神は唯一絶対のもの。じゃあ負けてしまった人たちの神はどうなると思う?」
「悪魔になるのか。なるほどな」
「そういうことよ」
勝てば官軍負ければ賊軍。負けてしまえばなにもかもが奪われる。人物金。あまつさえ信仰する神さえも。佳蘭が言うようにそのことについてどうこう言うつもりはない。ただそういう過去があったというだけだ。
「さて。巫女の役割は主に二つよ。一つ目が人々に神託を伝えること。つまり占いの力。そして二つ目は穢れを払うこと。つまり癒しの力ね」
「癒しの力はともかくとして、確かに俺の中の魔女のイメージと合うっちゃ合うな」
真っ黒いローブを着て水晶玉を見つめてる姿なんざよくある魔女のイメージだろう。まあ穢れを払う方はむしろ逆で、魔女といったら呪いだ。穢れを払うよりもかけてくる方がしっくりくる。
「あら。そうでもないわよ。穢れとはつまり病気のこと。魔女のよくあるイメージとして、怪しい大釜をかき混ぜてる姿を見たことがあるはずよ。あれは薬を作っているところで、つまり魔女は優れた薬草学の知識を持っていた。こう考えたら納得出来るんじゃない?」
「はーん。なるほどな」
それなら納得だわ。確かに魔女っつたら蛙やら蛇やらを煮込んでるイメージがある。あのよくわからん紫のスープは薬だったのか。
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