Last Witches 4
なーんて。実はちゃっかり裏がある。佳蘭から若々しい見た目の母親がいるというのを事前に聞いていたのだ。
「大方佳蘭が怪しい男にでも騙されているんじゃないかと心配したんだろ。俺の人となりを見るために誘惑してみた。そんなところか?」
「うぅぅ……せいかいよ」
「残念だったな。始めからバレてたんだよ。滑稽だったぜアンタの演技」
「もうやめてぇ……」
今更ながら恥ずかしさが込み上げてきたのだろう。顔を真っ赤にして俯く姿を肴にアイスティーを飲む。もうお行儀よくする必要もない。ついでとばかりに足も組む。一方的に俺を試すような奴に礼儀なんぞ不要だ。
「はぁ。慣れないことをするものじゃないわね。高戸くんは、佳蘭ちゃんのことどこまでご存じ?」
「あいつが魔女だってことぐらいは」
「そう。ならよかったわ」
柔らかく微笑みながら佳蘭の母親はゆっくりとグラスを傾ける。いつのまにか空気が変わっていた。嘘欺瞞全ての不実が許されないガチの雰囲気。
「佳蘭ちゃんはね、生まれた時から孤独だった。私含めて誰もあの子が見ている世界を見ることはない。誰とも世界を共有することができない一人ぼっちの存在。それが佳蘭ちゃん」
「アンタは、その、魔女じゃないのか?」
「違うわ。私は魔女じゃない。おばあさまからその瞳を受け継ぐことはなかった」
母親なだけあって確かに顔立ちは似ているところはあるが、金髪碧眼の佳蘭と違って黒髪黒眼。受け継がなかったというのはこういうことなのだろうか。
「魔女はおばあさまの代でおしまい。本当なら佳蘭ちゃんは生まれてくることはなかった。高戸くんはMDはわかる?」
「……CDみたいなやつで合ってるか?」
「合ってるわ。CDより小さくてカセットよりも音質がいい。昔は結構流行ったのよ。でも今じゃ誰もMDを使ってない」
「まあ当然だな」
ただ音楽聞くだけならスマホで充分だ。現代の必需品であるスマートフォンはそれこそなんだって出来る。広告さえ気にしなけりゃ動画サイトで無料で聞けちまう世の中だ。それにおそらくMDは数世代前の携帯音楽プレイヤー。好きで愛用しているとはいえウォークマンですら最近じゃあまり見かけない。いっそCDくらい普及していたら話は違ったかもしれないが、そんな大昔の物いまだに使っている奴はいないだろう。
「魔女もそれと同じなの。現代において魔女は必要とされていない。なにもそれは現実の話だけじゃないわ。フィクションの中だってそう。昔は魔女っ子だった。でも今は?」
「魔法少女ってか。なるほどな」
ジャンルを異世界にまで伸ばせばまだ魔女という言葉は生きている。だが現代モノじゃとんと聞かなくなった。良くて魔法使いで大半は魔法少女。言われて初めて気が付いたが、確かに魔女という概念は消えつつある。納得すると同時に今更ながら魔女という存在はなんなのか疑問が湧き上がってきた。
「おばあさまはよく言っていたわ。二十世紀とともに魔女の歴史は終わりを迎えたって。例えばそうね。聖杯伝説は知ってるかしら。騎士たちが大いなる力を持つ聖杯を求めて旅をする冒険譚」
「それくらいのふわっとした認識で良けりゃ知ってるぜ。いまだに擦られまくってる人気のテーマだからな」
「じゃあこれは知ってる? アドルフ・ヒトラーがこの聖杯に興味を示したっていう話。これから話すことはあくまで都市伝説とか陰謀論みたいな眉唾物の話。あまり真に受けないで頂戴ね」
ヒトラーっつたら悪名高きナチスの親玉だ。歴史の教科書レベルだが俺でも知ってる。第二次世界大戦頃の人物で、そいつが聖杯に関わっているなんて話は聞いたことがなかった。
「オカルトに傾倒していたヒトラーはナチスに聖遺物の捜索を命令して、聖杯あるいは聖槍を見つけた。それがナチスがあそこまで発展できた理由。そして手にした聖遺物を奪還されたことでナチスは崩壊した。凄い話でしょ?」
「まあな。それだけで一本漫画描けそうなくらいだ」
「そうね。こういった話は他にもあるわ。例えば旧日本軍の帽子についてる星型のマーク。あれは五芒星で、弾除けの意味が込められているわ」
「なんつーかガチで凄い話だ。今じゃ考えられねぇ。」
若干の呆れが言葉の中に混ざっていた。弾除けの話でいや似たようなことは現代でも残ってる。合格祈願のお守り握りしめて試験会場行くようなもんだ。よくある話だが、それを国がやったとなると話が変わってくる。例えるならあれか。スケールはデカくなるが政府が今年の経済政策として、金運上昇の銅像建てましたって言ってるようなもんか。あまりにも馬鹿馬鹿しい。
そこまで考えてここまでの話の本質が見えた気がした。どちらも共通しているのは国がオカルトを信じていたということ。今じゃ考えられないことだが、歴史を紐解けばそこまで変な話じゃない。平安貴族は祟りを恐れていたし、疫病が流行った時には神社や寺を建てた。
「もう少し身近なところで言えば口裂け女の都市伝説ね。全国の子供たちを恐怖で震えあがらせ、警察を巻き込むほどの社会現象にまで発展した。一つの都市伝説がここまでの騒ぎになるなんて令和の世の中じゃ考えられないわ」
「そうだな。都市部に行けば監視カメラだらけ。そうじゃなくてもスマホで簡単に撮影が出来る。小学生だってそうだ。防犯ブザーくらい当たり前に持ってる。そんな怪異じみた不審者が出没する隙間なんて微塵もねえ」
「そう。文明の光が昔からの闇を駆逐してしまった。繰り返しになっちゃうけど、だから魔女はおばあさまの代でおしまい。娘である私ですらおばあさまの力を受け継ぐことは出来なかったし、私もそれでよかった。だって魔女の居場所なんて、もうどこにもないのだから」
なんとなく、言いたいことがわかる気がした。あの白い影、くねくねを見てから俺なりに現代の都市伝説を調べてもみた。っつてもインターネットで検索するくらい。きさらぎ駅に八尺様、それにメリーさんとか色々出てきた。確かに昔からの闇は駆逐されたが、新たな闇が生まれてもいる。ただそこに魔女の居場所があるとは到底思えなかった。
「もうとっくに終わったはずなのに、佳蘭ちゃんは魔女として生まれてしまった。おばあさまから金色の髪と、見えないものを見る魔女の瞳を受け継いで。そして佳蘭ちゃん自身もそれを受け入れた。自ら孤高であることを選んだの」
まっすぐ俺を見つめる佳蘭の母親からの視線を受け止める。その目には一種の寂しさが混じっていた。
会話の当初からあった違和感。その正体に今更ながら気が付いた。下手な演技で俺を推し量ろうとしたように、肉親としての情は確かにあるのだろう。それでもコイツと佳蘭との間には明確な溝がある。「わたしが魔女だからよ」不意に佳蘭の言葉が脳裏に浮かんだ。強烈な自負と絶対的な孤高。佳蘭のその言葉を聞くたび俺はなにも言えなくなった。
「だからね、高戸くん。佳蘭ちゃんをよろしくね」
どこか哀愁を漂わせる微笑み。佳蘭の母親からの言葉に応えることが出来ず、俺はただ見つめ返すことしか出来ない。
あいつを、佳蘭のことを本当に理解できるのは同じ魔女であるあいつの婆さんだけだ。俺はおろか佳蘭の母親ですらあいつについていくことが出来ない。それがわかるからこそ俺は何も言うことが出来なかった。
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