Last Witches 6

 そういえば佳蘭の奴もお香やら香水を自作していたな。考えてみればハーブティーなんかも植物絡み。これが魔女の薬草学ってやつだろう。ゲテモノスープは出てこなかった。

「人は未知を恐れる物よ。かつての人々にとって魔女の薬草学はあまりにも早すぎるものだった。だからおぞましいもの、不気味なものと映った」

「おまけにさっきの悪魔崇拝がそれに拍車をかけたってところか」

「そういうこと」

 なんつーか聞いておいてよかったと本気で思う。魔女が異教の巫女という考え方は正直なかった。これで少しだけ佳蘭がどういう存在なのか理解出来た気がする。

「わたしの持つ見えないものを見る魔女の瞳。これは元々はその土地で祀られている神とアクセスするためのものだった」

「なるほどな。オメーのその瞳は神サマを見るためのモンだったわけか」

「そう。異教の巫女としての、確かな資格をわたしは有している」

「……気になるな、その言い方。なんか裏があんだろ」

 俺の言葉が佳蘭の図星を突いたらしい。一瞬苦虫を噛み潰したような顔をして、諦めたように溜息を吐いた。

「はぁ。なぜわたしのおばあさまがLast Witchesと呼ばれているのか。わたしは確かにおばあさまから魔女の瞳とその技を受け継いだわ。けど魔女の業までは受け継ぐことが出来なかった」

「つまりどういうことだ?」

「簡単よ。魔女になるためには秘薬が必要なの。製法はおろかその原料すらもうこの世にない。僅かに残された少量の秘薬を服用することが出来た最後の世代。それがおばあさまたちLast Witchesよ」

 そう語る佳蘭の瞳には複雑な感情が渦巻いている。おそらくだがコンプレックスというやつなのだろう。そこに土足で踏み入るのは、流石に躊躇われた。

「魔女の優れた薬草学の知識。中には現代医学をも超えるものもあるわ。魔女はそれらをどこで身に着けたと思う?」

「アァン? そんなモン昔からの……。ああ、いやスマン。始まりを聞いているわけか」

 食い物の中でもどうしてこれを食おうとしたんだと疑問に感じるやつがある。例えばコンニャクなんかが有名だろう。原料のこんにゃく芋には毒があって生じゃ食えない。確か粉末状にして石炭あたりと混ぜて加工することで、俺たちがよく知ってるあのコンニャクの形になり、食べることができるようになったはずだ。

 なんで毒があるこんにゃく芋を食おうと思ったのか意味が分からん。ついでに製造法が複雑怪奇すぎてなんで思いついたのか謎すぎる。ようは佳蘭が言いたいことはこういうことだ。

「適当に試しまくって見つけたとか? フグとか毒上等で食ってた、なんて話も聞いたことあるぜ」

「偶然の産物。確かに一部はそれに該当するわ。けど違う。魔女の知識は秘薬によってもたらされていた」

「魔女の秘薬って御大層な名前ついちゃいるがただの薬だろ? なんでそれが薬草学の知識に繋がるんだ?」

「服用していない以上わたしも完全には理解出来ていないわ。ただ魔女の秘薬には強い幻覚作用がある。それによるトランス状態が関係していると思うわ」

「……なあ。その魔女の秘薬ってもしかしてヤバいモンなのか?」

 若干俺の顔が引きつり始めた。幻覚作用にトランス状態、おまけにクスリと聞いて思い浮かぶモンが一つある。最近関わったヤバいモンが。

「そうね。高戸が考えている通り。魔女の秘薬は一種の麻薬と言っていいものよ」

「バッカじゃねーの?」

 流石の俺も悪態が出た。は? 麻薬ってガチかよ。とんだ劇物じゃねーか魔女の秘薬。巫女なんて言いながら結局は邪悪極まりない。

「あら。そうでもないわよ。シャーマンの中には儀式の中で大麻を使う人もいるわ。文化的に使用が認められているケースもある。国や文化で価値観は違うものよ」

「……まあ、確かに。日本じゃ禁止されてるモンも外国行きゃ合法って場合がある。逆もまた然りってか」

 まあ確かに昔からの風習ってやつは時に法律を超えることもある。食い物の中には例外的に許可されてるものもあったりする。そう考えたら納得出来るっちゃ出来るかもしれんが正直釈然としない。

「高戸の気持ちはわかるわ。事実わたしとしても思うところはある。とはいえいくら取り繕っても魔女は魔女。善くないものとされてきたのにも理由がある。高戸はサバトはご存じ?」

「どっかで聞いたことあるようなないような……」

「サバト。魔女の夜会なんて訳され方もあるわね。この夜会に遭遇した人の中には悪魔を

見たり、遠方の地に飛ばされて戻ってきたなんて話もあるわ。どういうことなのか、高戸なら予想出来るんじゃないかしら?」

「……麻薬による幻覚作用。トリップ状態で見たユメってところか?」

「正解」

 佳蘭の言葉に思わず嘆息する。ようはバッドトリップ状態で見た人間の顔を悪魔と認識したってことだろう。空を飛んでるような浮遊感や、激しい酩酊状態で周囲の景色が全く違うものに見えたに違いない。それが悪魔や遠方の地に飛ばされた理屈といったところか。

「ようはサバトってやつはドラッグパーティーだったと。とんだ巫女さんがいたモンだぜ」

「ほんとそうね」

 他人事のようにくすくす笑う佳蘭に軽くイラっとくる。オメーのことだぞと言ってやりたかったが、自嘲するような表情に思わず口を噤む。

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