Last Witches 3

   ※


 電車バスを乗り継いでの町外れの閑静な住宅街。日曜の昼下がりをのんびり歩く。会って話がしたいという俺のメッセージに対し、佳蘭はいつもの喫茶店「TOHNKS」じゃなくて自宅の住所を送って来た。まあ別に会えるんならどこだっていい。佳蘭がいいって言うんならいいんだろう。

 送られてきた住所の場所に着いた。漫画みたいなド広い超豪邸ってわけじゃなくて普通の一軒家。とはいえそこそこ広い庭はよく手入れされているし、家の外観も控えめだが上品だ。なんつーか住んでる奴は地に足をつけた金持ちなんだろうというのがわかる。

 だからといって気後れする俺じゃない。佳蘭がお嬢様だってのは、その雰囲気からなんとなく察しがついてたし、高校のツレの一人にゃ親が社長だって奴もいた。金持ちの家に行くのも初めてじゃない。特に気負うことなくインターフォンを鳴らした。

「はいはーい」

「佳蘭さんから呼ばれて来ました。高戸和也です」

「あなたが高戸くん? 佳蘭ちゃんから聞いてるわ。ちょっと待ってて。今開けまーす」

 機械越しだから完全にはっきりとではないがどこか佳蘭に似た声。ただあいつと違い間延びしていてどこかおっとりとした印象がある。

 ガチャリと扉が開き中から二十代後半くらいの美女が出てきた。でっけぇ。なにがとは言わんが佳蘭と違ってガチでデカい。流石の俺も圧倒される。

「さ! 上がって上がって」

「お邪魔します」

 玄関を上がりスリッパに履き替えるとそのままリビングに通された。普段の俺ならスリッパなんぞ履きゃしないがそこは郷に入っては郷に従えだ。いくら俺でもTPOくらいは弁える。

「今お茶を持ってくるわね。ソファで待っていてちょうだい」

「ありがとうございます」

 言われた通りソファに腰を下ろす。座り心地は中々。よくわからんが多分結構いいソファなのだろう。軽くリビングを見渡す。生活感はあるもののよく掃除されていて、客が来るから綺麗にしたというより日頃からこうなのだろう。金持ち特有の上品さが滲み出ている。

「アイスティーで大丈夫? 今コーヒーは切らしちゃってて」

「紅茶も好きなんで」

「ならよかったわ」

 出された紅茶を一口飲む。コロンとグラスと氷が触れる音がする。佳蘭の実家だからてっきりあいつのブレンドしたハーブティーかと思ったがいたって普通のダージリン。とはいえここまで来るのにそれなりの距離を歩いたから冷たい飲み物はガチでありがたい。

「ごめんなさいね。ちょっと佳蘭ちゃん外に出てて。多分時間になったら来ると思うわ」

「いいっすよ別に。俺が早く来すぎただけなんで」

 佳蘭との待ち合わせ時間まであと三十分以上ある。土地勘のない場所だからと早めに家を出たのが仇となった形だ。

「じゃあ佳蘭ちゃんが来るまで私と軽く話さない? 高戸くんのこと私知りたいな」

「まあ別に。ただそう面白い人間じゃないけどな」

「やった!」

 嬉しそうに俺の対面に座る。ちゃっかり自分の分のアイスティーを用意していた辺り、俺が断ったとしてもなんだかんだでこの流れに持っていくつもりだったんだろう。どことなく食えない雰囲気。面倒くせえ。

「佳蘭ちゃんああいう子でしょう? 高戸くんに迷惑かけてないかしら?」

「別に。むしろ世話になってるくらいだ」

「ほんとう? 秘密主義だし近寄りがたいとこあるじゃない。今日佳蘭ちゃんが家に男の子を呼ぶって聞いた時、私本当にびっくりしたんだから」

 まあ言いたいことはわかる。俺も『月光』のことがなければ佳蘭とは関わることすらしなかった。そして事件が解決すればそれで終わり。二度と交わることはない。俺と佳蘭の関係なんてそんなものだ。

「ねえ高戸くん。佳蘭ちゃんじゃなくて私にしない?」

 目の前の女がずいっと身を乗り出す。胸元を強調し、俺を見つめるその目は挑発的だ。空間に甘い匂いが充満する。チロリと唇を舐める赤い舌は蠱惑的で、思わず視線が吸い寄せられる。

 俺が普段引っ掻ける女とは比較にならないほどの美貌と色気。そんな極上の美女からのお誘いに俺は、ドカリとソファに座り直しアイスティーのグラスをゆっくりと口元へと運ぶ。

「確かにアンタは魅力的だよ。だが生憎、人妻に手を出すほど女にゃ飢えてねぇんだ俺は」

 一口飲む。そのまま冷めた目で女を見つめるとびっくりしたように固まっていた。さっきまでの甘い雰囲気が完全に吹き飛んでいる。

「いつから、気付いていたの?」

「最初からだよ舐めんな」

 そう言って得意げにアイスティーを飲む。この女は佳蘭の母親。確かに見た目だけなら姉でも充分通じるくらい若々しいがおそらく四十から五十代。出会った瞬間からこの女が佳蘭の母親だってのは気付いていた。

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