Last Witches 2
俺たちが今プレイしてるのは電子の記憶というネトゲ。結構歴史のあるシリーズで、初代の勇者の記憶は確かファミコン時代だったはず。所謂王道的なファンタジーRPGで、ファンからは記憶シリーズなんて愛称で親しまれてきた。かくいう俺も何本か記憶シリーズを遊んだことがある。
とはいえこの電子の記憶、古参ファンの一部からは結構嫌われている。ネトゲとしてリリースするにあたってそれまでのゲームシステムを一新。昔ながらのコマンド選択式バトルシステムから、スピーディーなアクションゲームに変貌した。まあこの変革について来られなかった奴らから散々叩かれもしたが、俺としちゃ結構気に入ってるし、なんならそれなりにやり込むくらいにはハマっている。
「ありがとうございます和也センパイ。これでなんとか呪脈剣《カースブルート作れそうです!」
「よかったじゃねぇか。流石に
「ね! コーデ勢としてはかなーり苦渋の選択だったんですよぉ。だけど僕の手持ち武器でガルドリウス行けるのこれしかなくて……」
苦虫を嚙み潰したような桃生の声色。桃生が使う男性アバターの恰好は黒狼装備をベースにアクセントとして金色のラインが入ったもの。この装備に優雅な意匠が施されたブルーエルマはガチで合っていない。俺も今日のコーデが決まらないとクエスト行く気が起こらねぇことがあるし、アバターの衣装にこだわるコーデ勢としちゃガチで苦渋の選択だったんだろう。
俺がこの電子の記憶にハマっているのにはわけがある。がーちで遊びの幅が広すぎるのだ。サイドストーリーも含めれば二千時間ある膨大なシナリオに、プレイヤーを絶望の淵に叩き落とす高難易度クエスト。なによりこのゲームの最大の魅力は、その確立された世界観だ。
歴史あるゲームだからこそ築き上げてきた世界は壮大でブレることがない。進化したグラフィックに、細部までこだわった小物の数々。キャラクリも自由度が高い上に、武器や装備も数えきれないほどの種類がある。ここまで作り込まれていると、まるで自分がゲームの世界に入り込んじまったみたいで、この幻想世界ゼレストラスをただ歩くだけでも楽しむことができる。
こういうアクション以外の細かなところにまで力を入れたからこそ、桃生みたいなアバターコーディネートを楽しむような連中が生まれた。他にもマイハウス作りにガチになるビルド勢なんかもいて、割とガチで色んな遊び方が出来る。最初はアクション目当てで始めた俺も、いつのまにかそれ以外にも楽しみを見出すようになっていた。
「見てくださいよ和也センパイ。どうです? 似合ってるでしょ」
「いいんじゃね? カッコよくまとまってると思うぜ」
ガルドリウスから落ちた素材で、早速お目当ての大剣を作った桃生が、自慢するようにポーズを決める。呪脈剣の紅い文様が、いい感じに禍々しさを追加していた。
「それにしても和也センパイのアバター女の子なの結構意外。名前もrin5って可愛い感じですし」
「あン? 男着飾らせて何が楽しいよ? それに名前なんてテキトーだよテキトー」
確かたまたま近くにリンゴがあったとかその程度の理由だったはず。変に凝って痛い名前になるよか洒落込みで適当に付けた方がマシだと思っている。どうせ使ってるうちに愛着が湧く。
「……名前、大事ですよ。その人を象徴する、一番シンプルで絶対的なものですから」
「へぇ。だったらその名前にゃどんな意味があるんだ? snowideさんよぉ」
「ぼくユキが好きなんですよね! だから一面の雪景色をイメージしてこの名前にしました! もう一つ、ハッピーユニバーサル略してハピユニにするか迷ったんですけど、アバター考えたらこっちかなーって」
「なんだよハピユニって。まるでゆるキャラみてぇじゃねぇか」
思わず苦笑いが零れる。桃生が作ったアバターはがっちりとした体格の男キャラ。確かにハピユニは似合わないにも程がある。
なんつーか桃生じゃないがちょいと意外だった。知り合って日は浅いがてっきりアバターはリアルと同じ女にしてるもんだと思っていたんだが。まあ桃生の一人称は「ぼく」だしなんかあるんだろ。とはいえそのことに突っ込むつもりはなかった。たかがゲーム。やりたいようにやりゃいい。
「そろそろ次のクエスト行くか? 折角作ったんだ。その武器の使い心地試したいだろ?」
「あー……。すっごく行きたいですけどもう寝ないと。軽くおしゃべりして今日はお開きにしません?」
もう日付も変わって深夜一時過ぎ。俺からすればまだ夜を楽しみたいところだが、確かに寝るにはちょうどいい時間ちゃ時間だ。桃生はまだ一年だし一限の講義もそれなりに多いはず。とはいえ。
「話すったってなんか話題でもあるのかよ」
「久留主先輩とは最近どうです?」
「……まあ、元気にやってるよ」
不意打ち気味に痛いところを突かれ、思わず一瞬の空白が出来た。誰が鉄平に『月光』を渡したのか。全ての謎が解き明かされた帰り道、俺と佳蘭はくねくねと呼ばれる怪異に遭遇した。襲われたわけじゃない。ただ出会っちまった。たったそれだけ。だがそれだけで俺を、なにより佳蘭を絶望の淵に叩き落とすには充分だった。
「もしかして喧嘩でもしたんですか?」
「んなわけねーよ」
それ以降佳蘭とは連絡を取り合っていない。ちょくちょく来ていた佳蘭からのメッセージがばったりなくなった。
あいつのことだ。くねくね、あの白い影について調べているはず。そしておそらくだが糸口一つ掴めていない。俺もあの時の憔悴しきった佳蘭の顔を見ちまってる以上、何も言うことが出来ず、くだらない日常を謳歌している。
「本当は喧嘩したんでしょ? 和也センパイの不真面目なところに久留主先輩がキレちゃったとか普通にありえそー」
「だーから違ぇって」
こっちの気も知らずにからかうような桃生の言葉。事情を話せない以上仕方ないが、それでもイライラゲージが溜まっていく。いい加減怒鳴りつけてやろうかと思った時だった。
「んふふふ。じゃあぼくがとっておきの情報教えてあげますね」
「なんだよ」
「天方山って知ってます?」
桃生の口から出たその地名に思わず固まる。てっきり佳蘭の好きなモンでも教えてくれるのかと思っていたが、想定外過ぎて意図がわからない。
「知ってるっつーか地元だが」
「あ、やっぱり。天方山に宇宙人が出没するってウワサ、知ってます?」
「いや知らん。完全初耳」
なに今そんな愉快なことになってんのあそこ。天方山っていや俺の地元のちょっとした景勝地だ。小高い山とそれを登るハイキングコース。それなりの大きさの湖なんかもあって、ボートの貸し出しや釣りなんかも出来る。俺も何度か足を運んだことがあった。
「で、それが?」
「有馬先輩がオカルトサークルで最後に調べていたのが天方山の宇宙人出没事件。どうです? 久留主先輩との仲直りのきっかけになるんじゃないです?」
「……そうだな。悪い助かった」
「いえいえー。ぼくも有馬先輩の調査に付き合って天方山行きましたけどいい所ですよね。それじゃ、ぼくはこの辺で落ちまーす。おやすみなさぁーい」
桃生からのボイチャが切れた。イヤホンを耳から外し、椅子の背もたれに深く沈み込ませるようにして背筋を伸ばす。いつもと変わらない天井。わかっている。これ以上鉄平のことを深く掘り下げても『月光』の謎に繋がりはしない。俺たちは完全に道を失っている。
「まあ気分転換にはなるか」
少し勢いをつけ身体を起こし、デスクの上のスマホを取る。佳蘭が乗るかどうかはわからない。それでもこの情報は伝えておいたほうがいいだろう。俺は久しぶりに佳蘭に連絡を入れた。
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