Last Witches 1
モニターの向こうで騎士ガルドリウスがタンクの拘束から逃れ、俺の方へ突進してくる。ったく。こっちは紙防御のソーサラーだってのにタンク仕事しろよ。
「センパイそっち行きました!」
「わーってるよ」
回避行動取りつつキッチリ置き土産に魔法攻撃も忘れない。適正距離まで離れるとすぐに桃生がもう一度ヘイトを取り返す。
「スミマセン」
「気にすんな。次は頼むぜ」
普段組んでるパーティなら非難轟々罵詈雑言をブチまけるとこだが何も言わない。そもそもこのクエスト自体桃生にはまだ早いもの。初めから出来ないのはわかりきっていたことだし、なんなら今の俺はキャリーする立場。この程度のフォローは当然のことだ。
バイトも終わってドフリーな平日の十一時過ぎ。これが金曜だったツレと三麻打ってるか、適当な居酒屋で酒飲んでるところだが、平日じゃそうはいかない。以前はまったりと自分の時間を満喫してたんだが、最近はもっぱら桃生とボイチャ繋いでゲームばかりをしていた。
「センパイ回復頼み…」
「もうやってる」
「早っ。ありがとぅ!」
必死なのか若干イントネーションのおかしい桃生からの感謝の言葉。タンクはボスの攻撃を受け止めるのが役割だ。どうしたって被ダメージが増える。これでも俺はそれなりのガチ勢。回復魔法での支援タイミングは完璧だ。
桃生緋沙子。こいつとは自殺した俺の親友、有馬鉄平の死の真相を探る過程で知り合った。富永弥という謎の人物が書いた『月光』という本は、読むと自殺してしまう。そんな本を、鉄平に渡した奴がいるかもしれない。その謎を突き止めるために、俺は鉄平の通っていた大学へと足を運んだ。
あいつが死ぬまで、俺は鉄平のことをなんとも思っていなかった。失って初めてかけがえのない親友だと気が付いた。そのことに対する後悔。俺の知らない生前のあいつを知り自分の中でケジメをつけるつもりで、桃生から告げられた有馬鉄平という男の裏の顔(ダイダロス)。結果的にその情報のおかげで、鉄平に『月光』を渡した人物まで辿り着き、謎は解き明かされた。
もう鉄平が通っていた大学の奴らとは関わることはない。完全に縁は切れた。そう思っていたんだが、ある日唐突桃生からメッセージが入った。内容は「おしゃべりしませんか?」という他愛ないもの。すっかり忘れていたが、確かに連絡先を交換していた。なんなら暇だったら相手してやるくらいのことを言った気がする。最初は雑談から始まり今じゃこうして一緒にゲームで遊ぶくらいの仲になっていた。
ちらりとクエスト経過時間を確認する。二十分経った。ダメージ(DPS)は稼げてる。そろそろだろう。桃生に声をかける。
「おい。大技準備しとけ。仕留めるぞ」
「ハイ! まかせてください」
拘束魔法でガルドリウスを足止めする。ぶっちゃけ数秒保てば御の字の緩めの拘束だがそれで充分。すかさず桃生が溜めモーションに入った。
ゲーミングマウスに仕込まれたマクロによる最高効率のスキル回し。クエスト開始直後からコンマのロスすらなく発動し続けている複数の支援魔法によるバフ効果。それが重なる瞬間がもう少しで来る。
イヤホンマイクから聞こえてくるガルドリウスの雄叫び。俺の拘束魔法を振りほどき、赤黒いオーラが自身の鎧を弾き飛ばす。かつては高潔な騎士だったガルドリウスは、邪悪な呪いを身に宿し魔に堕ちた。騎士としての鎧を脱ぎ捨てることで、その身に宿る呪いの力を全開にする。ゲーム的な話で言えば、攻撃モーションが変化し火力とスピードが上がる。代わりに防御力はペラッペラになり大ダメージを狙える。言っちまえばハイリスクハイリターンな状態だ。
「いっけー‼」
桃生が操るアバターの野太い雄叫びが耳に届く。気合い一発。そんな状態のガルドリウスに桃生の最大奥義大回転極塵斬りが炸裂する。俺の各種バフ効果のお陰で中々の火力が叩き出され、そのままガルドリウスの残りHPを削り切った。モニターにデカデカと映し出されるクエストクリアの文字。適度な達成感から小さく息を漏らした。
「やった! やっと勝てた! ってすんごいダメージ。ぼくこんな火力初めて出しましたよ!」
「あんだけバフ乗りゃあれくらい普通に出るぜ。それよりさっさと素材回収しろよ」
「あ、ハイ!」
俺の言葉を受け、桃生はいそいそとガルドリウスのドロップ素材を回収する。少し遅れて俺も続いた。
ぶっちゃけ俺からすればこいつの素材は別にウマくはない。ガルドリウスは弱いボスってわけじゃないが、俺が普段戦ってる理不尽ボス共に比べれば大したことない。俺のレベルならいつでも狩れる。ドロップ素材をスルーしたって問題ないが一緒に戦った桃生に対してそれはあまりに失礼すぎる。なによりこのゼレストラスというゲームの世界を堪能するのに相応しくない。
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