第6話 ことだま

「試しに、もう少し言葉を打ってみましょうか」

 そう言って僕は、フィールドにひらがなを入力してみた。

『やまたのおろち、ぼくはおまえをけしさりにきた』

 単刀直入に入力して、エンターキーを押すと。

『何だと?お主如きに我を消すことなど不可能だ!』

 画像のヤマタノオロチは、目を赤く光らせて、こちらに向かって口を開いてきた。

 グラフィックがすごいな、と感心しながらも。

 本当に、ウイルスなのか?

 まるで、本当に存在している怪物のようだと思った。

 そして少し、考えを巡らした。


「……僕なりの、仮説ではありますが」

 僕は三人のほうを向いて、話した。

「入力させてもらっていて、僕的には、言霊、という言葉を思いつきました」

「ことだま……」

 真澄さんも、真剣に僕を見つめた。


「言霊は、日本で古くから信じられている、言葉の持っている不思議な力だと、僕は認識しています。言葉は時として、人の心を傷つけますし、さらに精神までもを壊してしまうこともあります。逆に、言葉ひとつで人を助ける、とてつもない救いにも成り得る。僕は普段からインターネットの掲示板で、仕事の息抜きに、匿名の人と会話をしていますが、そこでも言葉の怖さと強さを思い知らされています。ここから本題です。ヤマタノオロチには、入力フィールドが存在します。ここにネット上の皆さんが、様々な言葉を打ち込んできたと思います。そのサイトの運営者やファン、逆にアンチファン、或いは単純に、ただのいたずらや、単純に暴言を吐きたかった人……その言葉を覚えて、人の心に溜め込まれた、負の集積とも言える存在のウイルスとなった。きっとヤマタノオロチは、当初はそれほどの猛威は振るっていなかったはずです。ですが、言葉の力で、悪しくもここまで恐ろしいウイルスになってしまった……と、僕は思いました」


「言葉の力……確かに、それは有り得るかもしれないわね」

 真澄さんは、やっと僕のことを睨まなくなってくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る