第七話(表):偽りの牙
冒険者として長く生き残るコツは、自分の力量を正確に把握することだ。
勝てる相手を選び、勝てない相手からは全速力で逃げる。それが、特別な才を持たない僕が今日まで生き延びてこられた、唯一にして最大の理由だった。
だが、今の僕には逃げるという選択肢はない。
「ネア、左だ! ルル、詠唱を急いで!」
僕は叫びながら、手入れの行き届いた剣で賊の刺突を弾き飛ばした。
今回の依頼は、近隣の村々を襲っている大規模な盗賊団の掃討だ。アルヴィン君が「俺が露払いをしてやる」と言って先行したが、僕たちはその漏れ出た一団に包囲されていた。
「は、はいっ! えいっ!」
ネアが、新調した長剣を力任せに振るう。
アルヴィン君との「特訓」の成果だろうか。彼女の動きは以前よりもずっと実戦的になっていた。あえて足場を崩しながら、転び際の勢いを利用して相手の懐に飛び込む。その危なっかしい一振りは、掠めただけで盗賊を昏倒させるほどの鋭さを持っていた。
ルルの魔法も、格段に「不器用」な正確さを増していた。
「……火よ。……当たって」
彼女が放つ小さな火球は、不安定に揺れながらも、的確に盗賊たちの足元を焼き、連携を乱していく。
二人は間違いなく才能に溢れている。けれど、やはり実戦の経験が圧倒的に足りない。
転んだ後に立て直す時間が長すぎたり、魔法を放った後に隙が生じたりする。
その隙を埋めるのが、僕の役割だ。
「させないよ!」
ネアの背後から迫る刃を、僕は自分の肩を差し出すようにして強引に防いだ。鈍い衝撃と、熱い痛みが走る。
「カイルさん!」
「大丈夫だ、前を見ろ! 君たちはよくやっているぞ!」
必死だった。
彼女たちの素晴らしい才能を、こんな薄汚れた森の中で終わらせるわけにはいかない。
僕は幾度も刃を受け、身体中に傷が増えていった。息が上がり、視界が滲む。それでも、彼女たちの前に立ち続けることだけは、僕の魂が譲らなかった。
ようやく数人の賊を退けたその時、森の奥から重圧が溢れ出した。
「……ほう。その程度の腕で、よくもまあガキ二人を守ろうなんて思えたもんだな」
現れたのは、全身に傷跡を持つ大男だった。
盗賊団の首領。纏っている空気の質が違う。最低でもBランク、あるいはそれ以上の手練れだ。
「ネア、ルル……僕の後ろに」
僕は震える足に力を込め、彼女たちを庇うように一歩前へ出た。
正直に言えば、勝機など微塵も感じられない。けれど、ここで僕が引けば、彼女たちが殺される。それだけは、世界の何よりも受け入れがたい結末だった。
「死ねよ、雑魚が」
首領の放った一撃は、僕の防御ごと身体を吹き飛ばした。
地面に叩きつけられ、肺から空気が漏れ出す。立ち上がろうとするが、筋肉が悲鳴を上げて動かない。
首領が、ゆっくりと僕に、そしてその背後の二人へと歩み寄る。
終わる。そう思った瞬間だった。
「――おい、俺の知り合いに勝手な真似すんじゃねえよ」
空気を切り裂くような鋭い声。
銀の甲冑が、森の木漏れ日を反射して眩しく輝いた。
そこに立っていたのは、一振りの聖剣を肩に担いだ、生意気盛りの少年勇者だった。
「アルヴィン、君……」
「遅くなって悪かったな、おっさん。……後は、俺がやる」
アルヴィンの背中は、昨日よりもずっと大きく、頼もしく見えた。
僕は意識を失いそうになるのを堪えながら、彼が放つ圧倒的な「本物の輝き」を、ただ呆然と見つめることしかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。