エピローグ

エピローグ

卒業から、ほんの少しだけ時間が経った。


制服を脱いだ実感も、まだ曖昧なまま。

生活が劇的に変わったわけでもなく、

ただ「立場」が静かに変わっただけだった。


忙しさはあった。

責任も、簡単じゃない現実も。

でも、それは理由にはならなかった。


連絡は途切れなかった。

特別な用事がなくても、

今日あったことを伝える相手は、最初から決まっていた。


距離を保つことに慣れてしまったぶん、

近づくタイミングを慎重に選んだ。


焦らなかった。

急がなかった。

けれど、迷いもしなかった。


「今なら、大丈夫だと思う」


その言葉は、

先延ばしじゃなく、確認だった。


好き、という気持ちは、

育て直すものじゃなかった。

置いたままでも、

ちゃんとそこにあって、

何ひとつ失われていなかった。


ようやく、立つ場所が同じ高さになっただけ。

それだけのこと。


だから、始まりは静かだった。

でも確かに、

今度は逃げない恋だった。


これは、やっと選べた未来。

そして、選び続ける覚悟の始まり。


物語はここで幕を下ろす。

でもふたりは、

同じ時間を歩き始めたところだった。

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ふわり、キミへと傾いていく 下川科文 @music-minasan

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