第3話 Phil Collins

 前2話があまりにも読者を置いてきぼりにしすぎたと思うので、少しは配慮して一般性のありそうなネタで書いてみます。


 世界的にもの凄く売れたアーティストなので有名だろうとは思いますが、よく考えてみると一番ヒットしていた "No Jacket Required" のリリースが1985年なので、若い人には通じない気もします。懐メロとして知っている人がいるかも?くらいかな。


 個人的な最初の出会いは、ノエビア化粧品のCMでした。

 今でも『ノエビア化粧品 CM』で検索すると、Youtubeで当時のCMが見られたり、WikipediaにCM採用曲のリストが有ったりします。当時は結構洋楽で人気で、CMやFMラジオで沢山流れていたし、TVで小林克也の『ベストヒットUSA』があったり、テレビ東京系でSonyがスポンサードしたMTVが深夜に放送されたりしてました。


 そのとき、私が惹きつけられたのが、"Invisible Touch", Genesis です。

 Genesis は、Phil Collins が在籍していたバンドで、ジャンルはプログレッシブ・ロックになるそうです。音楽にはあまり詳しくないので、ジャンルの違いはよく分かりませんが。

 当時は他に、タカラ焼酎のNEWSというウィスキーのCMで "Throwing it All Away" も流れていて、これで Genesis の2曲がお気に入りになりました。


 当時は確か中学生くらいで、パソコン方面の趣味もあるのでお小遣いには殆ど余裕がありません。代わりに、FM放送をカセットテープに録音する事が多かったですね。自分用のラジカセを持っていて、FM放送を聞きながらカセットに録音すると。


 あの時代はFM番組ガイド雑誌があって、どの番組でどの曲がかかる予定かまである程度書いてありました。それを見て、目当ての曲の流れる番組に周波数を合わせ、テープは『録音+一時停止』状態で待機して、DJが曲の前の紹介を言い終わった瞬間に一時停止を解除します。曲が終われば停止します。こうやってコツコツと好きな曲を取り集めて、マイベストをまとめたテープを作成します。

 当時はこれが『エアチェック』と言って、一般的でした。


 1980年代の半ばにCDが登場して、アナログレコードから少しづつ移行します。

 当初はCDのほうが割高でしたが、Sonyが携帯型のCDプレイヤーのD50を出して、価格破壊がはじまった記憶があります。どのタイミングだったが、居間のステレオセットにもCDが接続され、それ以降に買うアルバムはCDになっていきます。


 という流れで、シングル曲と同名のアルバム、"Invisible Touch" を買いました。


 最初にアルバムを通して聞いたとき、CMで流されているような、明るいポップな曲だけではないのに少し驚きました。"Domino" とか "Land of Confusion" とか "Tonight, Tonight, Tonight" とか。でも、それが気になるのです。繰り返し聞いているうちに、そちらのほうが好きになってきました。


 また、最後の曲 "The Brazillian" はインストゥルメンタル曲でした。

 同時期に "Faherenheit", Toto も買っていて、こちらの最後の曲 "Don't Stop Me Now" もインストでした。なので、少年時代の私は、洋楽のアルバムってインスト曲が入っているのが普通なんだ、と誤認識します。これが間違いとは暫く気付きませんでした。


 さて、Genesis が気に入ったと言う話を洋楽に詳しい友人にしたところ、プレグレが気に入ったのか、と言われました。他にも Yes とか King Crimson とかあるよと教えてくれましたが、FM番組で流れた曲を聞いても、Genesis聞いたときほどはピンときません。いろいろ模索しているうちに、Phil Collinsのソロアルバムで、当時一番有名だった "No Jacket Recuired" を買い、まさにこれだ!オレの好みは Phil Collins だったんだ、と思いました。


 そして、他にも Toto とか Tears for Fears とかもポツポツ買っていたところ、NHKだったかWOWOWだったか記憶が曖昧ですが、アナログBS放送で Genesis のライブが放送されるとTV番組表で知りました。早速 VHS-HiFi ビデオデッキに録画予約を入れ、録画しながら視聴しましたが、度肝を抜かれました。


 何だ、コレ。

 こんなの聞いたことが無い。すげーカッコいい。


 アルバムでも聞いた、”Domino" が別の曲のようだ。疾走感が凄まじい。感情的には数倍の超高速演奏しているように聞こえるが、視聴時間からはアルバム収録版と大差はない。テンポとリズムを完全に支配されているということか?その上、Phill Collins のドラミングはアルバム収録版にない余計なオカズを入れまくっていて、手数が増えているのに精度もスピードも上がっているように聞こえた。


 正直な話、これまでに聞いた範囲では、スタジオ録音アルバムに比べてライブ盤のほうが演奏の技術面は残念になることがちょくちょく散見されたような気がします。ライブ感とか別の味があるので、ライブ盤もそれはそれで悪くないと思っていました。その先入観を木っ端微塵に破壊されました。


 で、録画したライブの中でも、インストゥルメンタル曲が素晴らしい。

 ”Drum Duet” から "Los Endos" に至る流れ。そして、ライブ場面は終了し、テロップと同時に流れるスタジオ録音の "Do the Neurotic" で改めて度肝を抜かれました。


 このライブの音源ではないですが、Phill Collins のライブ演奏を確認してみようかと思った方には、以下のYoutubeをオススメしておきます。ほぼ半世紀前の古い曲で古い演奏ですが、ベストの一つだと思います。特に、映画上映が終わった後のライブ映像で、ツインドラムの競い合いの緊張感とか最高に好きな一品です!

・https://www.youtube.com/watch?v=xPaadjCwtHs


 さて、この後 ”Invisible Touch" に入っていなかった曲を探す旅が始まります。

 アルバムを遡ってみると、どうも Peter Gabriel 時代は好みに合わない。MTV などで聞いた "Sledgehammer" もそうだった。洋楽に詳しい知人は、どちらかといえば Gabriel 時代の Genesis が正統で、Phil Collins 時代の方向性は好きじゃないんだそうな。洋楽雑誌などを借りて読むと、そういう感覚のほうが一般的らしい。

 仕方ないので、一人で好きな曲を聞いて、あまり他の人と音楽の話はしないようになっていきました。


 そういう訳で、他者から新しい情報が入らない状況で、Phill Collins / Genesis 方面を掘り続けるようになりました。輸入盤CDショップで海賊盤のライブ録音を見つけて狂気したり。どのアルバムにもはいっていない "Do the Neurotic" はシングルのB面だと知ってようやく手に入れたり。


 そんなこんなで少しづつCDを集めている所に、今度は "Brand X" という、Genesis を離れたソロ活動があったことを知ります。早速CD屋でアルバムを探し始めましたが、あまり店頭に在庫が無く、かなり探し回ったような記憶があります。


 苦労して入手したファーストアルバム ”Unorthodox Beheivier" は、最高でした。

 ジャズ寄りのスタジオセッションっぽい雰囲気で、ライブに近い疾走感がありました。音楽的には素人なので印象論でしかないんですが、ロック系よりジャズ系のミュージシャンのほうが凄腕な印象を持っていました。しかし、このアルバムで Phil Collins は全く負けていない。むしろリードしているのでは?とさえ思いました。


 しかし、Brand X のアルバムは、このファーストが一番良かった気がします。

 そもそもメンバーが固定していないセッション的なバンドみたいで、アルバムごとに結構変化があり、曲もかなり千差万別です。2枚目以降は Phil Collins が歌う曲もあり、別にこっちで歌わなくてもいいんじゃない?と思った覚えがあります。


 そんな感じで、Phil Collins/Genesis を追っかける日々が続きました。

 他に買った中では、Mike and Mechanics も結構好みにあいました。


 しかし、1996年に Phil Collins が Genesis を脱退し、1997年には新ボーカリストを迎えてアルバム "Calling All Stations" が出ます。私も買ったんですが、ボーカルの声が変わっただけではなく、バンド自体の音楽もかなり変わってしまった印象で、その方向が自分の好みと合いませんでした。次のアルバムは買わないかもなぁ、と悩んでいましたが、それが出ることはありませんでした。


 そして、2002年にソロアルバムの "Testify" がリリースされました。

 ちょうどこの頃、MP3の人気が高くなっていました。iPod を始めとする各種携帯プレイヤーの普及もあり、CDを直接聞くよりもPCでRipしてから聞く方が多くなっていきます。その派生で、Ripして作成した圧縮済の曲をネットでばら撒く人が出てきました。P2Pなどで共有するなど、著作権侵害がカジュアルに行われるようになっていました。


 これに対抗して、コピーコントロールCD、CCCDが現れます。

 これは、PCでCDをRip出来ないようにすることを意図したものですが、実際にはRipを防止できる効果は極めて低く、再生機器にダメージを与える可能性を危惧されたり、音質の悪化も指摘されるものでした。既にPC上のCDドライブで音楽を聞く環境に移行していた私は、勘弁してくれ、と思っていました。


 そのCCCDのプロモーションで、Phil Collins は積極的に支持していました。

 当初は、米国版はCCCD採用されないとの観測もあって、Towerで買えばいいかと気楽に考えてましたが、米国版もCCCDだという話を聞いてがっかりしました。


 著作権違反の違法コピーはいけない、それは分かるし同意する。

 しかし、違反行為に対する効果はほとんど無いのに、お金を払って買いたいと思っているユーザーに、プレイヤーへのダメージや音質の悪化などを押し付けるのか。それはちょっと頂けない。音楽は好きだけど、音楽のためだけに行きている訳じゃないし、少ないお小遣いの使いみちは音楽だけでもない。

 大人になった今なら、業界として何とかしなきゃいけないという事情も分からなくはないんですけどね。それにしても、手段が悪すぎた。


 もう精神的に疲れてしまって、その後長い間音楽を買わなくなりました。


 そして、割と最近になって、昔を懐かしんで色々聞くようになりました。

 もはや完全にCCCDは廃れています。最初から出さなければよかったのに。色々な音源も、公式アカウントがYoutubeで公開していたりもします。


 後になって聞いたり調べたりして、その後の Phil Collins/Genesis について色々と知る事が出来ました。2006-7年にかけて Phil Collins が Genesis に復帰して世界ツアーを実施したものの、脊椎手術の影響で演奏に支障がでたと引退を宣言します。今になって当時の再結成ライブを聞くと、既に全盛期/前世紀の演奏とは違って聞こえてしまいます。年齢に伴う衰えかもしれませんが、脊椎手術が必要になる原因が既に影響していたのかもしれません。


 ソロ活動の方は、ディズニー映画『ターザン』の主題歌を歌っていたのはTVなどで聞いた覚えがあります。上記の引退後、2010年に活動再開して、アルバム "Going Back" をリリースします。これは当時のFMなどでちらっと聞いた覚えがあり、立ち読みでチラ見した音楽雑誌では結構酷評されていました。トップミュージシャンとしての先進性が無いとか、原曲のモータウン当時のアレンジと差が無くカラオケに過ぎない、などという趣旨だったような。個人的に聞いてみた印象では、これは本格復帰して音楽業界に問いかける『作品』ではなく、引退したおじいちゃんが昔好きだった曲を『歌ってみた動画』としてニコニコ動画に上げるような感じじゃないの?と。


 更には、2017-2019年にソロツアーの "Not Dead Yet Tour" を実施、2021-2022年に Genesis として "The Last Domino? Tour" も実施されました。これらはいずれも身体はかなりガタガタの状態で、杖を突いてステージに上がり、ストールに座りながら歌うのですが、声の張りはかなり衰えていて、ファンとして懐かしくもあり、悲しくもある、複雑なものでした。ドラムも息子が叩いており、これは結構父親に似ている感じだったのは微笑ましく見られましたが。


 なんだか後半は悲しい感じになってしまいましたが。

 青春時代に一番好きだったので、全て引っくるめて大切な思い出です。

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