第6話「成長」

 カウンターの奥で、ひと段落ついたタイミング。

 みらいが、エプロンの紐を整えながら小さく息を吐く。


「……じゃ、休憩入りますね」


 ひかりは伝票を確認したまま、顔だけ少し上げる。


「おつかれ」

「無理してへん?」


「大丈夫です」

「今の時間、落ち着いてますし」


 みらいは、ちゃんと現場を見ている感じだった。

 ひかりは、ほんの少しだけ口角を上げる。


「さっきの説明、ええ感じやったで」

「あのお客さん、最初ちょっと緊張してたやろ」


 みらいは一瞬驚いてから、照れたように笑う。


「……見てました?」

「気づいてました?」


「そら見るやろ」

「チーフやで?」


 軽く言うけど、目は優しい。


「ちゃんと相手見てた」

「“売ろう”やなくて、“過ごしてもらおう”って感じ」


 みらいは、少し安心したように肩の力を抜く。


「それ、よかったです」

「たまに、これで合ってるのかなって思うので」


 ひかりは、手を止めて、みらいを見る。


「合ってる合ってる」

「みらいは、そのままでええ」


 一拍置いて、少しだけ声を落とす。


「ちゃんと続けてきた人の立ち方や」

「自信ない顔してるときも含めてな」


 みらいは、少しだけ目を伏せてから、うなずく。


「……ありがとうございます」

「じゃ、コーヒーだけ飲んできます」


「いってら」

「甘いの、飲みすぎたらあかんで」


「もう遅いです」


 そんな返しに、ひかりが小さく笑う。


 みらいがバックヤードへ向かう背中を見送りながら、ひかりは心の中で思う。


 ——ほんま、ええリズムで育ってる。


 店内の音が、また自然に流れ始めた。

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