第二話 入札の結果

「今日はよろしくお願いします!」


 俺の声が薄暗い洞窟の中に響き、奥の暗がりに溶けて行った。今日は魔石採集のバイトだ。ここは最寄りのダンジョンの二階層で、奥からカンカンッカンと不規則な音が聞こえて来る。そしてその手前に灰色がかった作業服を着た人たちがツルハシを担ぎながら奥へ歩いているのが見えた。


「おう兄ちゃん!半日頑張ってな」


 このダンジョンの所有者である寺田テラダさんに挨拶をしてから、彼の横にあるボックスへ無造作に入れられたツルハシを選び抜いて奥に向かう。


 魔石はエネルギー問題を解決する万能次世代エネルギーとして未だに高値で売れるらしく、この手のバイトはいろいろな所から依頼されているので簡単に受けやすい。なので、採戦者サイセンシャになれる二十歳を超えたばかりの大学生みたいな人をよく見かける。この前も俺が講義をした大学の生徒と遭遇した。正直採戦者ランクの低い人がやるバイトトップスリーに入っているのでちょっと居心地が悪かった。


 しばらく進むと音は段々と大きくなり、空間全体が紫がかった不思議な空間に辿り着いた。足元に転がるのは魔石で、中に魔力が詰まっているので紫色に発光している。魔石はツルハシ等の鋭利なモノで傷を付けると、そこから封じられていた魔力が噴き出して最悪大爆発を招きかねない。だからしっかりと目付け役が居る。


「えーっと、藤本嶺フジモト レイ君はA-8の担当だよ」


 目付け役の言われた通りに、石壁に大きく赤文字で『A-8』書かれた場所に辿り着くと、岩肌から紫が露出していた。早速作業に取り掛かろうとすると、隣の『A-9』担当の男が話し掛けて来た。


「すみません、僕このバイト初めてで…魔石の掘り方を教えてくれませんか?」


「あぁ、うんいいよ」


 たまに何も知らない人が紛れ込んでいるのは別に良いんだけど、正直バイトを募集した側でこういうのはどうにかして欲しい。だが、魔石の爆発に巻き込まれたくは無いので教えることにした。男は自分を『苗字が鳥が座る音で鳥座音トリザネ、そして名前は動物のバクと都心ので鳥座音獏都』と名乗ると、それに乗っ取って俺も名前を返す。


「レイってもしかして王と命令の令で玲ですか?」


「いや、山の頂上って意味の嶺だね。えーっと、山冠を上に領土の領を下で嶺」


「へー!珍しい名前ですね!」


「まぁ、そう?」


 君の方が珍しい名前だと思うけど、と思いながら獏都君に魔石の掘り方を説明する。


「――で魔石が埋まってたらこのノミとハンマーで削り出す」


 俺は腰に掛かったノミと小さなハンマーを抜いて見せて説明すると、獏都君は『おー』と感心したような声を上げながら両手に持って、それらをマジマジと見ていた。最初から低姿勢だった彼は、何か知らないことを教える度に面白いように反応してくれるので世渡り上手だなと思いながら俺は喜んで実践して見せた。


「こう、ですか?」


「あー違う違う。なんだろ、魔石が露出してる箇所からの外側を内側に向かって打ち付けていく感じ。あとはハンマー側は腕を動かすんじゃなくて手首のスナップを利かせるイメージで」


 彼は飲み込みも早く、見る見る内に削り出していくと頭くらいの大きさの魔石を掘り出して布に包んだ。俺も負けじと慣れた手付きを見せつけながら魔石を採掘してそのままバイトは終わった。


「今日はありがとうございました」


「こっちも再確認出来たしありがたかったよ」


 最近はどこに行っても教えてばかりだなと思う今日この頃、獏都君と別れて帰路の途中スマホに一通のメールが届いているのに気が付いた。それは四月中旬頃によく考えずに入札したオークションのについてだった。


「え、マジで落札されてる?」


 個人作成のサイトだったので、メールも手打ち感満載だったので気が散ったが、要約すると『貴方が落札したので出品者とお電話してね』という旨の文と恐らく出品者の電話番号が載っていた。


「ゼロゴーゼロ?」


 つい口に出してしまったが、記されていた電話番号の始まりが詐欺電話でしか見たことが無いようなモノだったのでスマホで調べてみると、インターネット回線を利用した電話番号らしく、簡単に契約が出来るらしかった。どっちにしろ今は外だし電話するのは帰ってからにしよう。


「はー美味かった!お腹一杯だわ」


 やっぱり家で人目を気にせずカツ丼をかっ食らうのが一番美味いな。腹も満たされたことだし寝ようかなと煎餅布団に寝転がり、スマホを開いてまたもや思い出した。


「電話…してみるかぁ」


 少し気乗りしなかったが、落札したんだしとりあえず電話する義務はあるだろう。そんなことを思いながら電話番号を入力した。そしてしばらく無言で読み出し音を聞いていると、五コール目で繋がった。一瞬謎にビクッとしてしまったが、向こうからは抑揚の無い女の人の声が聞こえて来た。


「あの…私のダンジョンを買ってくれた人…ですか?」


「どうしてそれを?まぁ、そうです」


「いえ、ただ…私に電話を掛けてくれる人はそうそう居ないので」


 どこか陰気さが漂う彼女は自身を『サッキー』と名乗った。外国人とも思ったが、普通に偽名だろう。まぁ一円ダンジョンを出品する時点でおかしな人と思っていたので、あんまり捻りが無いなくらいの感想しか出てこない。


「それでサッキーさん…ずっと聞きたかったんですけど」


「あ、はい」


 俺はこのダンジョンを見つけた時から思っていたことをサッキーにぶつける。


「この取引って合ってますよね?」


「え、合ってるけど…あっいや、合って…ます」


「いやいや、一円で落札っておかしいと思って当然でしょう」


 肝心の彼女はそれがさも当然かのように返してくるので、つい電話口でツッコんでしまった。だが、別に彼女はその姿勢を貫くつもりで怪しさはどんどん増している。そして話はダンジョンの引き渡しのことになる。


「れ、嶺さん…は採戦者の資格はあります…よね?」


「えぇ、当然ですよ。そうじゃないとそもそも入札出来ないし」


「一応権利についてはもうれ、嶺さんに譲渡してあるんですけど、一度元私のダンジョンを見に来ます…か?」


 確かにほとんど手に入ったら面白いなーくらいの感覚での入札だったので、本来その前にするハズなんだろうけど一度もダンジョン自体を見に行っていない。


「明日は祝日です…し、れ、嶺さんがもしよろしければ明日の午後一時はどう?…ですか?」


 こちらとしても祝日なのは変わりないので約束をしてから電話を切った。しかし詐欺でもなんでもなく普通に取引が終わったけど、最後まで拍子抜けする人だったな。不思議って言うより会話をするのが苦手な人なんだなって思った。でも、まだダンジョン自体を実際に見てないし、結局何とも言えないってのはそうである。


 明日の見学を楽しみにしながら俺は眠りに落ちたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る