ワンコイン・ダンジョン~個人が作成したオークションサイトで怪しいダンジョンを購入しました~
アスパラガッソ
第一話 とある個人サイト
「な、無くなってる……」
まだ肌寒い早朝、俺が今月から働くハズだった企業のホームページを開くと、そのページが丸ごと無くなっていることに気付き、パソコンを見つめて唖然としていた。確かに入社式前日『本社がダンジョン災害に巻き込まれて甚大な損害が発生したので入社式は中止』なんて旨のメールが届いていたけど、たった数日で企業ごと綺麗サッパリ消えてなくなるなんて想定していなかった。
「つまり…俺…今日から無職?」
こうして数週間後、新卒カードを無駄にして、魔石採集バイトとダンジョン講師のバイトを行ったり来たりするフリーターが誕生した。しかもどっちも場所が固定されていないバイトなので、ほとんど電車に乗っての出勤だ。
いやー、電車での通勤はちょっと憧れてたからワクワクした(数日で飽きた)けど、まさか大学卒業した結果がフリーターとは…。それに
「えー皆さんよろしくお願いします。今日はダンジョンに関する講義をしにやってきました。
大勢の生徒の前でマイクを使って喋るのは毎度緊張するが、五回目ともなると流石に慣れて来た。あと、小さい頃からいろんな文献を読み漁ってきたのが後押しして自信となる。それに好きなことだから楽しんで話せるため、緊張は話を始めるとすぐ解けてしまうのだ。
「この講義には何度か出る予定だから、この際に少し自己紹介をしようかな。あー、質問があったら答えるよ」
そして俺のフリーター誕生エピソードなどを話したりしていると、一人の生徒から質問が飛んで来た。
「先生はどうして採戦者を目指しているんですか?僕自身も目指しているので先生の考えやキッカケを聞きたいです」
「うーん、そうですね。考え…いや、まずはキッカケを話したいと思います。私は小さい頃に家の付近がD災に巻き込まれましてね。その際に採戦者の人に助けてもらったんですよ、それがキッカケですかね」
そして普段は使わない外行きの一人称を使いながら続けて考えを話した。まだFランクの身からしたら偉そうに考えを語るのは少し気不味さを感じるが、生徒たちは最後まで何も言わずに聞いてくれた。
「ありがとうございました。ちなみにお話に出て来たD災って、ダンジョン災害のことで合ってますか?」
「合ってる合ってる!そういえば最近は
そうして生徒とコミュニケーションを取りながら講義を進めていると、あっという間に終わりの時間が来た。
「じゃあ今日の講義はこれで終わりです。明日もよろしくお願いします」
授業が終わりザワザワし始めた教室を背後に俺は大学を後にした。
その帰りの電車内でスマホを使い、主にダンジョン関係のニュースや記事に目を通していると、気になる記事が目に入って来た。『良いダンジョンの選び方』という見出しに釣られて開いてみると、筆者の挨拶に続き内容文が書いてあった。記事を要約すると、プライベートダンジョンは初期費用が高い分、採戦者の資格があれば維持費と管理費が安くリターンが大きいとのことで、ご親切にそれらが買えるURLが最後に載っていた。そのサイトが気になった俺は、帰ったらじっくり見てみることにした。
「ふー、良い湯だった。っと、あのサイトのこと忘れてた…」
俺の住むアパートは風呂が無い為、近所の銭湯で疲れを流している。心身共に暖まった俺はそのままの勢いでまだ午後にも関わらず寝るところだったが、スマホを開いた時にあの記事のままだったので辛うじて思い出した。
早速パソコンを使ってURLを調べると、ダンジョンが買えるサイトに飛んだ。どうやらそこはオークション形式でダンジョンが買えるシステムで、値段や立地、内部情報に軽く目を通しながらどんどんとスクロールしていった。
「ふぅ。背中も痛くなってきたし、このサイトで最後にするか」
すっかり身体は湯冷めしたが、好奇心を原動力に更には別サイトにまで飛んで見漁り、最終的にほとんどアクセスが無いような個人が作成したオークションサイトにまで足を運んだ。個人作成だからか従来の大手サイトのようにUIが整理されていなくて中々出品一覧に辿り着かなかったが、なんとか試行錯誤して見ることが出来た。
「やっぱ個人ともなるとほとんど出品はされてないな」
このサイトでの出品数は合計で二十程度、他のサイトは数十万件とかザラにあったのでその少なさが数字に顕著に表れていた。まぁ普通こんな製作者が動いているのかも分からないようなサイトに売り出す奴は居ないよな。
居ても買うやつ同様に
「一円?ハッ!どうせ、こんなサイトで買う奴なんて居ないよなって思ってふざけて出品したんだろうな」
俺は鼻で笑いながら何かふざけたことでも書いてないか気になって覗いてみた。だが、期待に反して内容は至ってシンプルで、テンプレに準えてしっかりと物件の詳細が書かれていた。
つまらないなと思いつつも目を通していくと所々気になるところがあって、それは条件欄に集まっていた。条件①は問題無く他の出品でも見られた【定期的な間引き】が一番最初に来ていた。②も同じで【定期的な庁の検査】だった。庁ってのは多分ダンジョンの管理運営をするダンジョン庁のことだろう。
「条件③…なんだこれ…【階数の変化に注意】?」
そもそもこれは条件なのか?と疑問を抱きながらもスクロールはそこで止まった。興味が無いと言ったら嘘になる。だが、仮に落札したとしても明らかに値段以上の手間が掛かってめんどくさい。それに期限も今から大体一か月先の五月中旬だ。つまりまだまだ落札しようと金を積む奴が居るかもしれない。
「いや、そうだな。金を積まれたら諦めよう」
許容範囲量の文字を頭に読み込ませたせいか、いますぐにでも横になりたかったので、他に落札者が居るなら諦めるということを自分に言い聞かせて、そのダンジョンに入札することに決めたのだった。
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