あしびきの

 「おいーっす」

手をヒラヒラさせながら陵駕がやって来た。こいつ…遅れてきたのに態度がでけえ。

「もうちょーっと早く来れたんじゃないかね?」

「えぇマジ?今から軽音行くのはだるいって」

…分かった、俺が悪かった。

「にしても意外だったぜ。秋平がかるた部の見学行きたいなんてよ」

「いいだろ、別に」

「だから別にいいって言ってるだろ!」

…頭が痛い。これ以上話続けられそうにない。俺は力行館の重い扉を開けた。

 目に入ったのは話している5人の生徒。Tシャツの人が一人と制服の人が四人。Tシャツの人は先輩だろう。

「あれぇ?見学希望ぅ?」

先輩が俺らを見つけてこちらへ歩いてきた…ってこの人でけえ!目算で180cmは超えてるぞ。しかも手足が長い。

「うわぁ!男子が二人ぃ!男子の見学なんていつ以来だろぉ」

声がよく通る人だ。話し方が間延びしてるから響くように聞こえる。

「ちーっす。俺は陵駕、こっちは秋平。よろしく!」

なんで洋画風の挨拶なんだ。思わず冷や汗が出る。初対面の先輩相手にこんなんじゃ先輩怒るだろ。

「よぉ陵駕ぁ、秋平ぃ!私は弥喜みさきぃ。よろしくぅ!」

頭の痛みが増してきた…。

「んでぇ、秋平君だっけぇ?いつからかるたしてたのぉ?」

「僕は小学校からなんですけど、中学校でもやってて」

「へぇーそうなんだぁ」

ん?ちょっと待てよ。

「先輩はなんでぼくがかるたやってたって知ってたんですか?」

「だってぇ、爪が短く切られてたしぃ、靴下の上からでも足の甲に若干こぶができてるのが分かるしぃ」

 さっきまでとは違う汗をかいた。この先輩、すごい。会ってすぐなのにここまで人を観察したのか。でも…

「それだけじゃ分からなくないですか?」

「まぁ、決定的になったのはそれだねぇ」

そう言って先輩が指さしたのは、俺のリュックについているキーホルダーだ。

「それぇ、近江神宮で売られているかるたくじでしょぉ?」

先輩の指さした先には「あけ」の札のキーホルダーがあった。先輩の言う通り、昔近江神宮に行ったときに買ったものだ。

「経験者かぁ。来てくれて嬉しいよぉ。好きなだけ見てってぇ」

そういって先輩は階段を踊るように昇っていった。陵駕と俺で顔を見合わせ、おそるおそる後についていった。

------------------------------------------------------------------------------------------------

※近江神宮とは、滋賀県大津市にある神社で、小倉百人一首の初めの歌である「秋の田のかりほの庵の苫をあらみわが衣手は露にぬれつつ」を詠んだ天智天皇が御祭神であることや、競技かるたの主要な全国大会が境内の近江勧学館で毎年開催されるため、「かるたの聖地」と呼ばれている。境内では、かるたくじ(一枚300円)を販売している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る