理外の公爵令嬢、魔力9999の勇者(仮)と世界を解く 〜魔法の時代は終わりました。これからは科学の時代です〜
レイジ
第1話 魔力ゼロの公爵令嬢、そして魔力9999の勇者(仮)
同学年に、どうも珍しい男の子がいるらしい。
フランソワ・アリエル・ド・シャルロイド。
シャルロイド公爵家の長女。兄が二人。現在は実家を離れ、王立イスタルシア総合学院に在籍中。戸惑うばかりだった初めての寮生活にも慣れ始め、落ち着いて学業に打ち込めるようになった初夏の頃。
制服がはためく。白色に統一されたブラウスにプリーツスカート。まだ時折肌寒いときがあるから、薄めのストール。ターコイズブルーは学院色のもの。午前の講義を終え、フランソワはそそくさと、身を隠すように中庭の端をそろそろと、会食堂へと向かう学院生の流れに逆らいながら早足に歩く。
「あれ、フランソワ様じゃない?」
「しっ…触れない方がいいわ」
酷い言い方よね? もう慣れたけど。
別に陰キャとかそういう訳じゃあありませんけど。ないつもりだけど、学院の中では極力目立たず、騒がず、ただ好きな学問に注力したいだけなの。なのだけれど。
「この徽章が邪魔なのよね」
学院のルールだから、文句を言っても仕方ないのだけれど。
ようやく人気が消えて、中庭の裏に見つけたベンチに腰かける。
制服の襟元には徽章、要するにピンバッジが付いていた。金色のもの。王家、もしくは王家に連なる公爵家の血筋を示すものだ。他にも侯爵がシルバーとか、男爵がブロンズとか、身分によって徽章の色が定められているの。
この学院、元々貴族専用学校だったのが順次解禁されていって、入学試験さえ通ってしまえば平民でも入学できるようになったのが数年前。学院としては平等に扱いたいらしくて、『特待生の差別はやめましょう』だとか、『学校施設は序列関係なく使用するように』なんてお達しとか張り紙が随所に貼ってあるのだけど、人の意識がそう簡単に変わる訳でもないでしょ。
そもそも、『特待生』という言葉自体、差別的ではあるのよね。「本来は貴族だけの学院だけれど、平民ながら優秀だから特別に入学を許可します」という意味なんだもの。
でも、私が人目を避けているのは貴賤の問題ではなくて。
「私も魔法が使えたら、もう少し堂々とできたのかしら」
バスケットに放り込んであったサンドを齧る。どうでもいいけれど、サンドイッチ卿には心から感謝したいわ。ポーカー好きだったらしいけれど、手軽にランチを楽しめるようになったのは革新的だもの。
「そうね、こういう革新的な思想が必要だわ。それこそ、魔力無しでも活躍できる未来を創るのよ!」
一人で宣言しても聞いてるのはパンくずを狙う鳩と雀ばかり。
ともかく、私の最大の悩みでもあり、とにかく人目(特に貴族)を避けているのは、私が『公爵家なのに魔法が使えない』から。魔法の常識だけれど、魔法は基本的に遺伝するから、普通は王家が一番魔力が高くて、ついで公爵、伯爵、男爵、という具合に魔力が下がっていって、平民になると一般的には魔力ゼロ、というのが常識なのよ。
つまり、王家に一番近いはずのシャルロイド公爵家で魔力に目覚めなかった、なんて前代未聞、私自身も調べたけれど記録なし(万が一魔力ゼロの事例があっても残さないと思うけど!)、そもそもお父様とお母様はもちろん、二人の兄だって類まれな超魔力を持って生まれた、と言うのに、なんで私だけ、と恨み言がでなくはないの、でなくは。だから、『科学』に出会っていなければ、私は多分もっと腐っていたと思うわ。
という事で、学校の噂話には疎いのよ、私。ただ、そんな私にでも耳に入るくらい、その「珍しい男の子」は特徴的、ってことみたいで。
まず、平民ながら魔力を持っているらしいこと。
とはいえ、平民=魔力ゼロ、という方程式は成り立つようで成り立たないのよね。貴族が庶民に生ませたご落胤なんてその辺にいるし、没落した貴族の血筋、なんてものもある。先祖返り的に魔力が復活する、なんてこともあるから、それ自体は珍しいけれど希少ではない、と言ったところかしら。
もう一つが、留学生であること。これは珍しいのかしら? 王立イスタルシア総合学院は外国にも広く門戸を広げているから、クラスに一人や二人留学生がいるのが当たり前なの。
最大の特徴、かつ前代未聞なのが、彼の頭髪。
彼は漆黒よりも濃い、新月の真夜中よりも暗い、黒髪らしいのよ。
普通、髪色と言えば私みたいなブロンズ、或いはシルバー、もしくはブラウンが定番なのよね。ちょっと珍しい色としては朱色、赤色の類。濃いめのブラウンが黒髪に見えることはあるけれど、彼の髪色はそういう類ではないらしくて。なんというか…『黒そのもの』らしいわ。見たことないけれど。
一体どんな髪色なのかしら。イメージしてみるけれど、どうにもピンと来ないわね。
黒髪といえば、八百年前の第二次大陸戦争で活躍した、勇者シグルドが黒髪だったらしい、という話だけれど、本当なのかしら。ほら、英雄が脚色されるのはいつの時代も同じだし。
そんなことを考えているうちに、予鈴が鳴ったわ。
「早めに行きましょ、次はセドリック先生の講義だし」
零れたパンのかけらをはたくと、待ってました、と鳩やら雀やらが寄ってきた。存分に召し上がるといいわ、なんて令嬢っぽく言ってみて、少し空しくなる。
ともかく、次の講義は私が大好きな物理科学の講義なのよ。基礎科学は実家で独学したけれど、やっぱり独学だと限界があるのよね。それがセドリック先生の話を聞くと、それはもう、痒い所に手が届くというか、これまでの詰まりが解消されていくのよ。可能なら他の講義をぶった切って、一日中講義を受けたいくらい。
なので、来た時よりは足取り軽く講義室へと向かう。思った通り、楽しい講義だったわ。だから、午後の講義に集中している間に、黒髪の男の子についてはすっかり頭から消えてしまったのだけれど…。
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