五夜 くものはなし

その日も有紗は、夜、河原のベンチにいた。


「よっ」


「待っていたぞ、朋也!」


短い挨拶をして、俺はベンチに腰掛けた。


「蜘蛛ってさ。」

有紗が話し始めた。


「何で8本も足があるの〜〜?!」

何故か俺を指差しながら、有紗が言う。


「いや、俺に聞かれてもな……。

逆に手足が人間と同じで4本しかなかったら、それはそれで変だろ」


有紗は唇をギュッと噛み締めて、灯りの消えた電灯を見上げ、考える。



「それはそうかもだけど……。

でも、8本も動かせるのはおかしい!

怖い!気持ち悪い!」


有紗は、大きく手足をバタつかせながら喚く。


(苦手なのに、蜘蛛になったつもりで考えてる……?!)


「俺じゃわからんから、調べてみるわ。」

そう言って俺は、腕のデバイスへ手を伸ばす。


「いや、結構です」

急に真顔になった有紗が、それを手早く制止した。


「え?なんで?」


「結構です。こわいので」


「…………」


(……気ままか!)



昼間降った雨で、少し水嵩を増やした川が、緩やかに流れる。

小舟となった緑の葉を、月の光が優しく照らした。




そうやって、

その日の夜は更けてゆく──。

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