三夜 ねこのはなし
その日も有紗は、夜、河原のベンチにいた。
「よっ」
「おっ!朋也!来たね〜」
短い挨拶をして、俺はベンチに腰を下ろす。
「今日ね。」
有紗が口を開く。
「学校に行く途中、すっごく可愛い猫を見たの!」
有紗は、腕のデバイスで撮影した写真を、楽しそうに見せた。
川をバックに、何もない空間にホログラムが浮かぶ。
写真には、黄色い目をした小さな黒猫と、しゃがんで笑顔を見せる有紗が映っていた。
「へえ。可愛いな」
俺は猫派だ。
性格上、リアクションは薄いが、正直言ってワクワクしている。
有紗は薄緑色のブレザーを着ている。
初めて会った日に聞いたが、私立舞園女学院に通う1年生らしい。
この辺では有名な進学校だ。
「このくりっとした尻尾も可愛いよね」
有紗が指を動かすと、地面に横になる黒猫単体の写真が浮かぶ。
その長い尻尾は、急なカーブを描き、有紗の言う通り、猫好きの嗜好をくすぐる確かな魅力が備わっていた。
「うん。これはずるい。
可愛い以外の答えが見つからないわ」
もう一つ気になったのはホログラムの端に映る文字だ。
"2/56"と書かれた数字と、今日の日付が浮かんでいる。
(有紗、結構撮ってるな……)
「次はねー」
有紗は肩を左右に振りながら、ご機嫌にデバイスをいじる。
(全部見せる気か……。)
(まぁ、いいか。夜は長いし。)
薄い青色のホログラムの光が、俺と有紗の顔を明るく照らす。
この小さな光はきっと、この夜で唯一の、文明による光なのだろう。
そうやって、
その日の夜は更けてゆく──。
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