第2話 作戦会議
夜の談話室は、昼間よりも広く感じられた。
蛍光灯が一本だけ点いていて、残りは節電の名目で落とされている。
壁の時計の秒針が、やけに大きな音を立てて進んでいた。
「作戦会議であります」
郷田鉄五郎が背筋を伸ばして言った。
丸テーブルの中央には、誰かが持ち込んだインスタントコーヒーと、個包装のせんべいが積まれている。
「……こんな薄暗い中で何の」
神山金治はすでに嫌な予感がしていた。
「決まってるでしょ…ふぅ~…」
姫野ケイが脚を組み、煙草を指で弾いた。
ここは禁煙だが、灰皿はなぜか常に置いてある。
「この施設を救う作戦よ」
郷田は一度頷き、ノートを開いた。
罫線は歪んでいるが、字は几帳面すぎるほど揃っている。
「まず、現状整理であります。資金不足。補助金は不透明。理事長は——出さない」
「出せない、じゃなくて?」
神山が言う。
「出さない、であります」
郷田は断言した。
「調べました」
その一言で、空気が変わった。
「……どうやって」
「元警察官でありますから」
ケイが吹き出す。
「それ、もう何十年前よ」
「ブレインとルートは現役であります」
郷田は淡々と続ける。
「理事長は自宅に資産を集めている。帳簿上は赤字だが、実態は違う」
神山は頭を抱えた。
「待て。今の話、完全にアウトだ」
「そこであります」
郷田は人差し指を立てる。
「我々が強盗をする案」
「やっぱり出た!」
神山が声を上げる。
「論外だ。年金も止まる」
ケイは面白そうに身を乗り出した。
「で、どうやって?」
「拳銃は使わないであります!」
「そこじゃない!」
神山が叫ぶ。
郷田は咳払いをした。
「却下であります」
「最初から自分で言っといて!」
三人は同時にため息をついた。
沈黙のあと、ケイがぽつりと言う。
「じゃあさ……銀行じゃなきゃいいのよ、強盗」
郷田と神山が顔を上げる。
「理事長の家」
「……家?」
「そう。あの人、税金もロクに払ってないって噂よ」
郷田はノートを閉じ、ゆっくりと頷いた。
「それなら話は別であります」
「どこがだ」
神山は呆れたが、二人の目は真剣だった。
「盗むのではなく、取り戻す」
郷田の声は低い。
「不正に溜め込まれた金を、本来使われるべき場所へ戻す」
ケイがにやりと笑う。
「ヒーロー気取り?」
「違う」
郷田は首を振る。
「老後の延長戦であります」
神山はしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。
「……細工なら任せろ」
ケイは立ち上がり、肩を回す。
「車は私。逃げるなら、ちゃんと逃げる」
三人の視線が、テーブルの中央で交わった。
外では、夜風が木々を揺らしている。
「作戦名を決めるであります!」
郷田が言う。
「要らない」
神山とケイが同時に言った。
郷田は少しだけ笑った。
その瞬間、冗談のような話は、もう冗談ではなくなっていた。
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