第4話
都内某ホテルの最上階に青嵐は居た。瀟洒なシャンデリアが天井から吊るされた、スイートルームの一室で椅子に腰掛け、ワイングラスを悠々と傾ける。窓の外からは人工的な、煌々とした輝きを放つ夜景が目に入る。
青嵐は笑みを溢した。人の悪さが滲み出している。
「社畜共が必死になって金を稼いでいる中、俺はゆっくりワインとチーズで舌鼓を打つ。社会ってのは不平等だねー」
色んな方面に喧嘩を売る発言だったが、彼の胸ぐらを掴んで黙らせる者は居ない。返事が返ってこず、虚しさを覚えた青嵐はワインのボトルを半分開けたところで中断する。
酔いが回ったからではない。彼の表情には困惑が浮かんでいた。
(訪問者……こんな時間にか)
風の精霊を制御している彼は気配の探査を得意としている。その精度はホテルの周囲を飛び回る羽虫すら見逃さないほど。
(この気配、一般人じゃない……術者か。それも二人。実力は……まあまあってところか)
仮に襲いかかってきたとしても大した脅威にはならない。青嵐は欠伸を噛み殺しながらそう判断した。
これは油断ではなく、彼の正当な評価だ。自らの力を誰よりも知り尽くし、自らの限界を誰よりも見極めているからこそ、他者の実力を視抜くことが出来る。
戦いになったとしても何も問題はない。盤面を覆すような予想外が起こり得ない限り、現状判明している情報から彼の予想を逸脱することは決してない。
だから、青嵐が案じているのは彼らの実力ではなく、その胸の裡に秘める目的だった。
(このホテルに俺が宿泊しているのを知ってて来てるのはまず確実だな。日本は俺の
情報屋は文字通り情報を売るのが仕事。相手が誰であれ、金を払えば客。青嵐も帰国したててで国内に繋がりはない。それでも報酬の何割かを支払うことで情報屋は雇えた。
今回彼に仕事を紹介した情報屋もそうだ。顔も名前も知らない。携帯でのやり取りしかない。連絡も最低限であり、もう電話を掛けても繋がらない。
唯一分かってるのは、声。女性ということだけ。それ以外は何もかもが不明。
金さえ積めば誰でも利用できるのが情報屋。そういう世界の住人だ。
だから、自分の居場所が不特定多数に漏れることには何の疑問も持たなかった。
(だが、それなりの術者がこの俺を訪ねてくるのは普通じゃねぇ状況だ。少なくとも平和的にお話をして終わりとはいかねーだろ)
問題なのは、そこまでして自身を見つけ出し、何をしようとしているのか。青嵐はそれを危惧していた。
すでに気配はホテル内に侵入しており、少しずつだが着実に彼の元へと近づいてきている。ホテルのセキュリティが杜撰なようだが、そうではない。精霊術師は精霊を統べる
ホテルの監視カメラやホテルマンをやり過ごす
(扉を開けさせる気だな。敵意はない……が、まぁ注意は払っとこうかな)
青嵐は抜け殻のように全身をリラックスさせたまま、客人が自身の部屋の扉の前まで来るのを待ち構える。
施錠はしているものの、相手はホテルマンを味方につけている。マスタキーさえあれば、開錠に苦労することはない。青嵐としては手っ取り早い方が助かるので、立ち上がる手間が省けて無駄な動きを減らせたと感謝すらしていた。
(さて、鬼が出るか蛇が出るか……)
そして、遂にその時は来た。
空の精霊術師 鳶 @gtmag
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