第3話
『く、くく、くくくっ……』
押し殺すような笑い声が闇の中で響く。それは地の底から辺りへ伝わり、次第に規模を拡大していく。
『あはははは!!!!』
弾けるような音は圧となり、空間全体を圧し潰していく。そこに居た全ての生物は壁との間で圧殺され、生命を持たない空気さえも不浄に侵されて死に絶える。
本来、空気がない場所で生物は存在できないが、
あらゆる概念を超過した存在、それこそが人外。人間が観測できる狭い定義の範疇に収まるはずもない。
『漸く見つけたぞ、風鬼青嵐』
声が低く落ちる。数秒前まで笑っていた事実は消え失せる。歓喜は拭い去られ、憎悪に満ちていく。負の感情は力となり、現実を歪める。それから迸る瘴気は新たな魔を孕み、膿み、生む。その光景は形容し難いものだった。
地を這うもの。宙を舞うもの。姿を消すもの。鋭きもの。鈍きもの。速きもの。言葉にすればそんな陳腐なものだが、目を背けたくなるような魑魅魍魎が跋扈する。
それが生み落とす魔は全てが人の敵。人を憎み、恨み、殺すもの。
それが持つ意思が反映され、様々な形となって顕現している。闇をも平らげようと蠢くそれは命を下す。
『奴を殺せ。奴が護ろうとしている者も、奴を護ろうとする者も、何もかもを破壊し尽くせ』
必要はなかったが、意思を言葉に乗せることで力を分け与える。拡大し、分裂し、増殖する。それに制限はなく、生命もない。ただ無限の形容を可能としている。
そして、どんなに優れた現代兵器であっても排除は出来ない。軍隊のように指揮系統が確立されてなくとも、それの意思に従順に動く。
過去、未来、現在においてそれを完全に消滅させることは、只人の手では未来永劫叶わない。
人間の中でも選りすぐりの人類────精霊術師の浄化の力を要する。
魔を清め祓うのはいつだって彼らの役目だ。故に激突は必至。避けられるものではない。
『貴様には地獄をくれてやる』
本来ならば、人外に感情はない。蜚蠊を見て人間が生理的嫌悪を覚えるように、地を這う蟻を見て何となく踏み潰してやりたくなるように、視界に入った人間にも同じ気持ちを抱き、行動に起こしているだけだ。
そこに善悪はない。殺意もない。
しかし、例外はあった。極限まで膨れ上がった殺意を、それはたった一人へ向けていた。
『嗚呼、愉しみだ。本当に、本当に愉しみだ────魂の随まで穢し尽くしてやる』
無数の異形に囲まれる中で、それは嗤う。
これから始まる地獄の宴への期待と、絶望した一人の男の表情を想像し、哄笑を上げるのだった。
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