危険人物とコップ
*** 危険人物とコップ ***
私は璃胡先輩に引っぱられて、宿泊の家屋に戻ってきました。璃胡先輩は息を切らしながら話しはじめました。
璃胡先輩:まったく、大学はとんでもないことをやらせるわね……!
私:璃胡先輩っ、わざわざ来てくれたんですか? 一体、どうしたんですか……!?
璃胡先輩:やっぱり聞かされてないのね。この町にあなたがいる意味、いま大学が指名している『危険人物』、特殊存在『香山火下』。
私:かぐやまほたる…… えっ!? ほたるさん!? さっきまで一緒にいた……!
璃胡先輩:まず、見せなきゃいけないものがある。
璃胡先輩は、コップに水を入れはじめ、なにやら準備を始めていました。
璃胡先輩:部屋を暗くするわよ。
私:はっ、はいっ!
電気を消し、遮光カーテンで窓を覆いました。暗い部屋で、まるで怪談か降霊術でも始まるみたいだなと思いました。璃胡先輩は説明を始めました。
璃胡先輩:多匂、今は何年?
私:えっと…… LTD-1490年です。
璃胡先輩:つまり、最終規格が出来てから1490年。その暦を管理してるのも、この世界唯一にして最大の国際規格化機関、最終規格。それが誕生してからそれだけ経ってるの。正確には、『言論の炎』から1490年……
私:げ、言論の炎……?
璃胡先輩:コンピュータは分かるわよね? 最終規格によれば、世界のコンピュータは2種類。原初規格と最終規格よ。
私:最終規格って、コンピュータのことなんですね。
璃胡先輩:コンピュータは最終規格以前と以後に大別され、旧世代のものを原初規格と呼んだ。最終規格を必要たらしめ、1490年前、原初規格世界を襲った事件、言論の炎。
私:私たちが生まれるよりずっと前ですね……
璃胡先輩:世界が焼き払われた、そう表現されるわ。具体的に何が起こったのか、よく分かってない部分も多いんだけどね。とにかく、その事件のせいで、従来とは異なる方法でインフラストラクチュアを再開発する必要が出てきた。そこで最終規格が開発したのが、現在の最終規格コンピュータよ。
私:どう違うものなんでしょう…… あっ、工学科出身の璃胡先輩! 教えてください!
璃胡先輩:一朝一夕で理解できるものじゃないから、細かい説明は省くけど、要はこれよ。
私:水の入ったコップ…… ですか?
璃胡先輩:最終規格の中でも最も原始的な姿よ。あなたの持ってる端末なんかは、もっと使いやすいようになってるけど。電話機と糸電話みたいなもの。射風島外での大学との連絡は、こうして原始的な方法で取らないといけなくなってるのよ。
私:これでどうやって連絡を取るんでしょう……
璃胡先輩:暗い部屋で透明な容器に水を貯める。それだけ。私はこのコップを通して大学と連絡を取ってるわ。
私:えっ! 今ですか!? う〜ん、まるで占い師さんと水晶玉みたいですね……
璃胡先輩:多匂も、水性言語のひとつくらい使えるようになりなさい。で、あなたに見せなきゃいけないものっていうのは、まだこれからよ。
すると突然、コップがぱりんと割れました。私は割れたコップのほうを見て、さらに驚くことに気づきました。
私:なっ、なんですか、これっ…… 水がコップの形のまま浮いてる……!?
璃胡先輩:まぁ、驚くわよね。私も最初は驚いたわよ。
私:璃胡先輩がやってるんですか? 一体どういう原理で……
璃胡先輩:私も完璧に理解できてるか怪しいけど、分かりやすく言うと、2つの原理が働いてるはず。1つは、言葉の文脈が物理の文脈に干渉すること。もう1つは、言葉は圧縮したり引き伸ばしたり、潜在化したりすることができるということ。
私:よく分からないですけど、まるで魔法じゃないですか。
璃胡先輩:あなたはそう呼ぶのね。まぁいいわ。それで、その魔法とやらで凶悪な企み事をしてるのが、香山火下。
私:悪い魔女ってことですか…… ほたるさん…… なんでしょう、全然そんなふうには。だって私なんか最初、夏蜜柑さんと見間違えたくらいで。
璃胡先輩:そういば、なつみはどこなの?
私:えっ、私も分かりません。
璃胡先輩:いやな予感がするわね……
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