第6話

 五分後。

 チキンを二つ買って帰るとひよりは前みたいに大きめでよれよれのTシャツ姿でちゃぶ台の前に座っていた。

「や。おかえり」

 あんな姿を見られたって言うのにひよりはまるで気にしていないようだった。

「……これ、チキンだけど」

「あ。食べる食べる」

 チキンを頬張るひよりをなんとも言えない気持ちで眺めていた。するとひよりはへらっと笑った。

「でもびっくりしたよ。帰ってきたと思ったらいきなり出て行っちゃうんだから」

「びっくりしたのはこっちだ。あんな姿でうろつくなよ」

「あー。そっか。ここはお兄さんのおうちだった。でも褒めてほしいものだね。自分ちだったらタオルも巻かないからね」

「どこをどう褒めればいいんだよ……」

 妙に誇らしげなひよりに僕は呆れるしかなかった。

 そこで僕は気付いた。

「あ。そうだ。身分証。なんか年齢が分かるものあるか?」

「え? なんで?」

「僕が捕まらないために」

「でもどこからどう見ても普通に大人でしょ?」

「どこからどう見てもそう見えないから言ってるんだ。いいから出せ」

「まったくのび太くんは仕方ないね」

 誰がのび太だ。

 ひよりはリュックを引き寄せると中をごそごそとして財布を取り出した。

「はい。これ。マイナンバーカード~」

 受け取って確認すると生年月日をチェックした。

「十九歳……。マジか……」

 若いとは言え、思ってたより大人だった。

 言葉が出なくなる僕を見てひよりはふふんと胸を張った。

「どうだい? もう立派なレディーでしょ?」

「……いや、どこからどう見ても女子中学生にしか見えないんだけど」

「まあ、背がちっちゃいからね。でもこう見えて胸は大きいんだよ? 着痩せするタイプなだけで」

「すぐ分かる嘘をつくな」

 タオル姿であれなら胸なんてないに等しいだろう。

 ひよりは「へへへ♪」と笑うとまたチキンを食べ始めた。

「あー。お腹空いてたからおいしい」

「え? ごはんは?」

「食べてないよ。さっき起きたから」

「今まで寝てたのか?」

「寝る子は育つからね」

「育ってはないけどな」

 と言いながら買ってきた弁当をつつく。

 昨日は混乱してたから気づかなかったけど、誰かと一緒に食事をするなんて久しぶりだ。

 だからなのか少し楽しい。同時に今までどれだけ人と関わらない人生を送ってきたんだと内心苦笑してしまった。

 チキンをおかずにお弁当を頬張るひよりはなにやら悩んでいた。

「うーん。お兄さんがいない間どうしよっかな」

「部屋を探すんじゃないのか?」

「まあ、だけどすぐ見つかるか分からないんだよね。希望する条件が少し特殊だから」

「特殊?」

「うん。でも押し入れくらいななんとかなるかな」

 よく分からないけどうちの押し入れを勝手に改造しようとするな。

 するとひよりはチラリとデスクの方を見た。

「あのパソコンってあれかな? お仕事で使うやつ?」

 それはゲーム制作のために買った馬鹿でかい自作PCだった。最初のボーナスで高いパーツを盛り込んだ一品だ。

 でも今はほとんど使ってない。サブで買ったノートパソコンがメインになってる。

「……いや。昔趣味で組んだだけだよ」

「ふうん。じゃあ借りてもいいかな?」

「なにするんだ?」

「ゲーム。こう見えて中々の腕だよ」

「へえ」

 ひよりもゲームするんだな。周りにそういう人がいないからなんか親近感が湧く。

 まあするって言ってもメジャーなRPGとかFPSだろうけど。

 少し前の僕だったら断っていただろう。あれは宝物みたいなものだ。だけどゲームを作らなくなって二年以上経った僕にとっては部屋を占領する邪魔なでかい箱でしかなかった。

「……まあ、いいけど」

「本当かい? いやあ、いい人に拾われたなー」

「なんだよそれ」

「フフフ。言葉の通りさ」

 よく分からないけど褒められたらしい。まあゲームするだけなら変なウィルスとかに感染しないだろう。

 それにもうそろそろ諦めるべきだ。僕がいくらゲームを作ったって意味なんてない。ただサイトのサーバーを圧迫するだけだ。

 未練たらしく残しておいたけど、捨てるのも勿体ないし、かと言ってあんなでかい物を売るのも面倒くさい。誰かが使ってくれるな踏ん切りもつく。

 半ば自分の決心に後押しさせるような形で、僕はひよりにパソコンを貸した。

 それから風呂に入り、二人で一緒にテレビを観て、歯を磨き、僕はベッドに入り、ひよりは押し入れの中に帰って行った。

「おやすみ」

「おやすみ」

 挨拶をすると明かりを消し、変な充足感を覚えながら僕は眠りについた。

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