第4話
会社までは電車と徒歩で四十分ほど。
都会の隅にあるオフィス機器やそれ以外のあれこれを扱っている中小企業でルート営業を担当していた。
やることはいつもと変わらない。
お客さんの要望通りに物を発注して、それを納品する。新規開拓とかもあんまりしていないから顔ぶれはずっと同じだ。
同僚と話すことも決まっている。
天気の話。仕事の話。家族の話。趣味の話。
基本的に僕は聞くだけだから同じようなことを延々と聞かされている気分になった。
僕も話したくないわけじゃないんだけど、誰もインディーズゲームの話なんてしない。たまにCMでやってるソシャゲの話題が出るくらいだ。
会社が楽しいと思ったことはない。仕事もだ。ただお金を稼がないといけないから働いている。それだけだった。
だからと言って家に帰りたいとも思ったことはない。帰っても別にやることがないからだ。
でも会社よりは好き。その程度だった。
なのに今はアパートのことが気になった。ひよりは今頃なにをしてるんだろうか? まだ寝てるとか? いや、もう出て行ってる可能性も。
昼休み。そんなことを考えていると同僚の須藤がデスクに戻ってくるなり課長に言った。
「いやあなんか大変でしたよ」
「なにが?」と課長は聞き返す。
「E大に備品の納入に行ってきたんですけど、身分証見せろって言うんです」
「身分証? 名刺じゃなくて?」
「はい。免許証見せたら中に入れてくれました。なんでも高等部の女の子が誘拐されたとかで親が騒いで」
「誘拐?」
そのワードに僕の耳は思わずピクリと動いてしまった。
「詳しいことは分からないですけど、ストーカーがどうとか。まあ、今ってそういうの多いですからね。ネットで知り合った男の家に泊まっちゃう子とかいるみたいです」
「やだなそれ。うちの娘も中学生なんだよ。言っとかないと」
「男も男ですよね。見つかったら捕まって、仕事もクビになるのに」
え? そうなの? まあ、でもいいか。クビならクビで。
いや、でもそうなると再就職もできないか。
そこで一つの疑問が首をもたげた。
……あいつ、本当に家出とかじゃないんだよな?
中学生が家出して、それを誤魔化すためにあれこれ言ってたとしたら辻褄が合ってしまう。
それほどひよりは弱々しい中学生にしか見えなかった。
もし中学生だったら僕は……。
ガタガタと震えていると須藤は不思議そうにしていた。
「ん? どうした? 桜田」
「……いや、ちょっと寒気がして」
「風邪か? 気をつけろよ」
「はい……」
そうは答えたものの、気をつけるべきは他にあった。
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