第3話
朝。
目が覚めるといつも通りの光景が広がっている。
変わったことはなにもない。
昨日のことは夢だったんじゃないのかと思うほどだ。
食べた覚えのない幕の内弁当の空箱がゴミ箱に捨てられているのと、昨日ひよりが背負っていた大きめのリュックが部屋の隅に置かれていることだけが、辛うじてあれが現実だったと感じさせた。
とは言ってもひよりの姿は見えないので実際は僕があの弁当を食べて、リュックも買って来ただけの可能性は捨てきれなかった。
なので押し入れを恐る恐るノックしてみる。開けて確認したいけど約束をした手前できない。着替え中だったりしたらあれだし。
自分ちの押し入れをノックするのも間抜けだけど、それ以上にこれだけ緊張しているのが変な感じだ。
「えっと……。朝ごはん食べるけどどうする?」
返事はなかった。
やっぱりあれは幻覚だったのか? やけにリアルな幻覚だけど、そう言われると腑に落ちてしまう。
そもそも美少女が道路に落ちている方が狂っていた。
なんて思っていると眠そうなひよりの声がギリギリ聞こえるレベルで発せられた。
「…………いらない。……悪いけど寝かせて」
どうやらあれは現実で、うちの押し入れには美少女がいるらしい。
そう言えば朝が弱い的なことを言ってたな。
「……分かった。食べたかったら冷蔵庫にあるもん勝手に食べてくれ」
なんて気遣いを見せてみたけど返事はなかった。
それから僕はいつも通りトーストを焼いてインスタンのスープを飲むだけの簡単な朝食を取り、会社へ行く支度を終えるとアパートを出た。
「……一応鍵しとくか」
もし泥棒なんかが入ったらあの弱々しさだ。簡単に殺されるだろう。
いや、それよりもひよりが泥棒だったら? 金目のものってなにかあったっけ? 通帳くらいか。でもあれは暗証番号が分からないと引き落とせないしな。
あとはパソコンか。ゲーム制作用のやつは高いけど、最近あんまり使ってないし、いいか。
それにしてもいきなり美少女と同棲生活が始まったというのに全くその実感がない。
やれやれと思いつつ、それでもあんまりイヤだと思ってない自分がいた。
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