第2話 あの日ふたりで見た空

 中秋の名月を観ようときみは外へ出た。

 あいにく雲が多く、見上げた月にもくっきりとした雲がかかっていた。おぼろ月夜などという春の情緒とは明らかに異なる。


 この月、昔見たことがあるときみは思い出す。

 同じ月を見たのは十年ほど前、きみは高校生だった。塾の帰り、たまたま同じ塾に通う男子と出くわした。その顔をきみはよく覚えていない。


 ふたり並んで歩く。突然月がきれいだね――と彼が言うのできみは空を見上げた。

 月が青い――と彼は付け加える。


 たしかに高い空に明るい月があった。しかし雲も多い。くっきりと境界がわかる雲がたくさんあり、その一つが月にかかっていて、まるで月よりも俺を見てくれと言っているかのようだった。


 ただ――月の光は強く、雲を白く、空を青くする勢いがあった。


 月も綺麗だが雲も綺麗だよね。青いのは月ではなく空だよ。そんなことをきみは言った気がする。


 あの頃のきみは心に余裕がなかった。情感というものに疎かった。彼がきみを見る目をまともに見ることもなかった。ただ単純に月光に照らされ白くなった雲と青くなった夜空が美しくてきみはそう言ったのだ。

 そしてきみは戸惑う彼を引っ張り駅のデッキへと移動したのだった。


 あの時二人で見た美しい夜空を今になってきみは思い出した。

 今のきみはわかる。あの時の月と雲、そして彼ときみ。彼がきみに伝えたかったこと。


 今、彼は同じ月を見ているだろうか。

 きみの口元がゆるむ。

 連れていた娘が不思議そうにきみを見上げる。

 ――何がおかしいの? パバ。

 ――お月さんがとてもきれいだね。

 きみは微笑む。

 明るく白い月が雲の間からはっきりと姿を現した。



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2025年9月24日 エブリスタ お題「雲」

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