■■■■■■■■(いい人の怒り 人格否定)


社長室。

椅子に腰かけながら、社長はいつになく不機嫌である。

それもこれも、朝一番に社長を説得しようと試みた所長が、挨拶や社交辞令の後、


「そういえば前に、勝手に他者に自分の話が伝わっていた事がありましてね」

と、トラブルの話題を出した事によるものなのだが……


「あのさぁ」

麻十寺社長は苛々と机を叩いた。


「今の言葉、悪意があって言った? 本気でぼくの為に言ったつもり?」


麻十寺社長は、表向き『いい人』と評判であるが、

実は他人に対する想像力が全くと言って良い程にない。



「えーっと。えぇ、社長の意見をうかがいたいと」


「不幸自慢に?」


その上、自己愛が強く、ちょっとでも自分が悪くなりそうなときは喧嘩を転売……もとい他責か変わり身を持って来るのにためらいが無いのである。

「自慢……?」




怒ると手が付けられない。

そこで、被害を最小限に抑えるべく周囲の人間がどうしたかといえば

それとなく自分の話を始め、察してもらうという対処法だったのだと思う。


――――今も前回あった『資料の持ち出し、無断使用は後々に迷惑になるのでやめて貰えないか?』という相談を遠回しに表現したものであった。



しかし、これによって更なる「人格否定を過敏に感じ取った」麻十寺社長は激怒。






「ぼくがどんな苦労して来たかも知らないで

そう言う風に勝手に自分語りや不幸自慢して、勝手に良い気になるの

やめてくれない? それ本当にぼくの為になると思って言ってくれてるなら逆効果だから」



今にも物を投げて来そうなイライラが伝わる。

ふんぞり返りそうな社長に少し引きながらも、所長は直立している。

笑顔、笑顔。

「いやぁ、どう、感じましたか? 気になるなぁって。こういう風に知らないところで自分が知られているとゾッとしますよね」

「ぼくがそんな目に合わないだろって思って言ってる?」

ぎろっと鋭くにらまれて

所長は困惑した。

「?」

「それで、その不幸自慢聞いてさ、被害者面してる奴に対し、ぼくが『いーですね! 下には下が居るなんて。じゃあ大丈夫か』って元気が出ると思った? 考え方がマジで意味わかんなくて怖いから教えて」


わからないのも、意味わかんなくて怖いのもこっちだよ!

と所長は内心で思った。

被害者面とか、不幸自慢とか、よくそこまで他責に繋げられたものである。


「い、いえ、貴方の為と言うのは恐らく……そういう好意を含む為ではなく」


(もっと、社会的な……なにがし法に触れそうな)

周りからさりげなく、貴方にやめて欲しい事を言われていると気付いて欲しい。

……と思うところだが、

彼にとってそれは人格を否定されるに等しいので、無理だろう。


そこにあるのは傷付くどころかアカウントがあれば消し、人が生きて居れば探し出して消そうとするほどの強い怒りに包まれる、加虐性。

一体何処から来ているのだろう。


彼は、所長が自分の望む返答をしないのを見るなり、デスクの何処からかパペットを取り出し、一人で話し始めてしまった。

「ゴメンネェ、君に嫉妬シチャッテタ。誰もカマッテクレナイカラさ」

右手の、お化け人形と、左手のお化け人形が対話する。

「ウンウン、それは酷いね。それで不幸自慢をハジメタンダネ!」

「実は、そうなんだ」



2026年1月11日11時39分

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