hyponica:


食べ終わった皿を、流しに持っていく横目に、俯いている色が映る。


「目の前の報酬に囚われて……、試すような事を言って、それっぽいものを渡して、本や画面に張り付いたまま虚ろに笑ってるのを、毎日観てる。


『今』、までもが俺に伸し掛かって来るみたい。

親戚だって。誰も俺が気にしてる事も、大事にしてる事も、何も尊重しないで、自分たちのところが一番だって信じて疑わない」


藍鶴色は、そんなところに力を持たせたくないのだ。

簡単に人が潰れてしまう力でもある。


「だから家を出たのに」

皿を洗っている横で、色は袖で涙を拭いている。

逸る心を押さえながら食器籠に皿を置き、彼を抱きしめる。




「かい、せ……」

俺の腕の中で震える肩。

言葉にならない嗚咽が胸元を濡らしていく。

「でもさ、今日は違うだろ?」

背中を優しく叩く。ゆっくりと鼓動のリズムを刻みながら。

「俺がいる」

ふと顔を上げた瞳が揺れていた。

「うん」

涙の膜越しに見える世界はどれほど歪んでいただろう。


「……なんて、カッコつけたいんだけど」

ゆっくりとネクタイを解き、シャツのボタンをはずしていく。

「悪い。俺も、限界かも」

耳朶に唇を寄せて囁けば、微かに首筋が赤らんだ。












寝室に着いた途端、覆いかぶさるようにキスを落とした。

「んっ……」

色の頬に朱が差す。

深く絡めていく舌先の動きに合わせて、息遣いが乱れていく。

「あっ。待って」


シャツの裾から忍び込ませた掌が肌を撫で、華奢な身体がビクリと跳ねた。

鎖骨へゆっくりと歯を立てれば、痛みとも快感ともつかぬ喘ぎが漏れる。


可愛い。もっと見たい。

理性にギリギリのブレーキをかけながら

慎重に触れていると、色の掌が自分の手の甲に重なって来た。

「あんまり」


拗ねたように吐息をもらしながら、ゆっくりと脚を絡めてくる。

「何?」

その柔らかな腿に誘われるまま——





ピンポーン


無機質な呼び鈴が空気を破った。



「……」

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