CAF invoice  (社長と所長 2)

職権乱用だ。この人。

自分が傷付いちゃうからって理由で資料を横流ししてる。

西尾って……と色が何か言いかける。


「何でお前が幸せなんだ。ふざけるな裏切ったくせに裏切ったくせに裏切ったくせに」



「社長……申し上げづらいのですが、この後も仕事があるので、そろそろ」

所長が、麻十寺社長の言葉を遮るように帰りを促すと、彼も立ち上がる。

「そうだね。邪魔してしまった。そろそろ帰る」



(やべ、こっちに来る)

俺達は慌てて階段をおりて、物陰に隠れる。

やがてドアの開く音がして、誰かが出て行った。






社長が居なくなった後、仁郎所長がため息を吐いた。

「困ったものだなぁ」


「所長ー、ただいま」

橋引がドアを開ける。色も手を振る。俺も、どうも、と挨拶する。

「あぁ、君達か」


彼は安心したように微笑んで中に招いてくれた。


「さっき、社長来てたね」

幼い頃から此処に居て、一番付き合いの長い藍鶴色が、ソファにどかっと座りながら所長に振る。

「見てたのか」

所長も気恥ずかしそうに笑って言う。


「西尾って、出版関係の人でしょ。そこに提供した資料って何」

色は中に入るなり踏み込んだ。


彼は、聞いていたのかと驚きはしたものの、隠すのを諦めたように答える。

「超能力者の、資料だよ。君達が丁寧に纏めていた……」

「それを、持ち出させたって事?」

「あぁ。あのまま自分向けに書き換えて著書にする気だ」




麻十寺氏は自己愛が強い。

能力者の話を聞くとすぐ『不幸自慢された』『人格否定された』と言い出し対抗心を燃やすものだから。所長は呆れて頭を抱える。

「甘やかされてきたツケなのか、火病なのか。困ったもんです」


著書……

世界中の人に作り物として人格否定させて、面白がりたいという事だろうか? 

本人に直接抗議するならまだしも、作品として一生残る傷にする事が、彼の言われた悪口と釣り合うとはさすがに思えない。


「しかも、出版社が作品を守る形で盾になるって事だよね」

色が深刻な表情になる。

コーヒーカップを片付けている所長も、やや苛立ちを滲ませた。


「そう。ゆう子さんといい、非公開資料をわざわざ持ち出して、小説や漫画として内容をそのまま再利用するとは、陰湿が過ぎる。奪うくらいなら廃棄して居ればよかったのに!」


 此処のPCにあったというログもいくつか消され、或いは『西尾』『太田』と言う誰かの名前で権利者名を執拗に上書きしてあったという。


「直せるものは直したが。どうしても、所有者を『太田』『西尾』等に書き換えておくメリットがあるんだろう。利用してやる事で能力への嫉妬、怒りを収めようとしたか……此処を金庫と思う事にしたんだろう」



俺も中に入り、デスクに向かいながら考えてみた。


社長、には一度会ったことがある。

普段からあれだけ自己愛が強いのに、俺達にはいい人のように笑顔で接していて逆に怖い、不思議だと前から思っていた。


悪口くらい言うだろうし、自分を上げるために、執拗に此方に当たるというのが彼の精神性からも想定出来た事だ。

なのに、どうやって隠して居るのか?



所有物として財布代わりになるので、売り物に怒りをぶつけなくていいと思う事が出来るようになる、と言う事なら納得出来る気がした。

笑顔で明るく待ち構えながら、あとは此方を排除するだけと言う事か。

悪く言って来たら「なんでそんなに怒っているの?」と言うだけで良い。



「厄介なのは、捜査情報を勝手に流しているそちら側なのに。まるで西尾さん達はヒーローの側のように描かれている。これが崩されない限りは協調路線を押し出して来るだろう」

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