amblance
◆
「じゃあ、週末に二人で出掛けようか」
と、女の声がした。何やら賑やかだなと思っていたら、玄関先に他人が二人。
藍鶴と……
あれは、橋引だ。
「俺を抜きにして、なにしてんの?」
まさか真剣に朝食をつくっている間に浮気に走るとは。
近づいて行くと、藍鶴は曖昧な顔で笑った。よくわからん。
橋引は、あ、おはよう!と明るい声ではしゃいでいる。
「おはよう。あのね、色ちゃんがね!」
「……はっしー」
「ごめんってばー」
「なになに。浮気の相談?」
色が、ふいっと目を逸らす。
あー、これはこれは。なにか隠してらっしゃる。
彼女の方を向くと、やけに真面目な顔をしている。
「ああ、かいちゃん。無線から、情報が来たの」
なんだよ。
「……急に仕事の話かよ」
「まぁそう言わず……っと」
橋引は、ふと玄関の靴箱の傍――――そこにある本棚に目を向ける。
「ん? これ、みんな、年代順じゃないね」
そこには、現代用語を解説する冊子が、発行年数バラバラに並べてあった。
「あぁ。それは、順番なんだ」
「何の?」
「内緒。年代で見ればバラバラだけど、それ以外で見るとその順番だから」
なんか、わかんないけどそうなんだ?
と彼女は不思議そうにする。
「精神感応系の人って、たまにそういうとこあるよね」
それから、前もって準備していた手を出してきた。
「じゃ、はい。これ」
掌にあるのは、引きちぎられた小さなペンダントだった。
「これ、視るの?」
「うん」
掌に乗ったそれをそっと握る。目を閉じる。
さざなみが聞こえた。
ああ、海は嫌いだ。
「ざっくりしたことしかわからないが、まず狙うのは海の見える範囲だな。それから……これは、海外か? 英語の文字が浮かんでくる」
それ、から……
頭が痛い。
痛い。
痛い。
痛い。
「こんなん、ばっかかよ」
チッと舌打ちをするが、気は紛れない。
「なにか見えた?」
「念力が必要なのは、何らかの下じきになった、持ち主をつれてくるためか」
橋引が頷く。
「そのペンダントも、引きちぎられてるでしょ。唯一持ってこれた遺品なの
「なるほどね」
藍鶴が、紙とペンを差し出して来る。
黙って雑な絵を描くと、そいつはそれをじっと見つめて、顎に手を当てた。
関係無いが、こういうしぐさがたまに艶っぽくて、つい、ときめいてしまう。
「そうだな。海がある範囲で、さらにこの形状の石がある場所……」
「恐らくは5940年代辺りから6250年代の山での噴火事件。遠くに時代にあった会社の建物が見えたからな」
俺が言うと、そいつは黙って考える顔をして、少しして、肩に手をのせてきた。
「ん?」
囁かれて口付けられる。え。
なに、なにこの流れ。
「ちょ、と、色ちゃん」
獣のような、目。
しばらく俺を堪能してから、また無表情に戻る。
俺は照れて顔が熱いというのに。
「そうだな、海が見える範囲というのは、確かか」
「重点的にはな。だが、油断するわけにも行かない。岩のそばに誰かが居た感じがするんだ」
「誰か、ね……他に、わかることは」
橋引が言う。
「例の、あいつらよ」
色が、青ざめる。
俺は、ただ黙っていた。色が、拳をぎゅっと握る
「わかった。できる限り俺もやる」
拳を握って怖い顔をしている、藍鶴色に近づき、そっと掌を握る。
「だから、そんな困った顔すんなって」
「……困った?」
不思議そうだ。わかっていないらしい。
「それより早く、会社に戻ろう」
きゅるる、と彼の腹の虫が鳴る。恥ずかしくて抱きついてきた色を、なにかを願うように、優しく抱き締める。
大丈夫。俺らは、生きてきた。
これからも。
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