amblance



「じゃあ、週末に二人で出掛けようか」

と、女の声がした。何やら賑やかだなと思っていたら、玄関先に他人が二人。

藍鶴と……

あれは、橋引だ。

「俺を抜きにして、なにしてんの?」


 まさか真剣に朝食をつくっている間に浮気に走るとは。

近づいて行くと、藍鶴は曖昧な顔で笑った。よくわからん。

橋引は、あ、おはよう!と明るい声ではしゃいでいる。


「おはよう。あのね、色ちゃんがね!」

「……はっしー」

「ごめんってばー」

「なになに。浮気の相談?」

色が、ふいっと目を逸らす。

あー、これはこれは。なにか隠してらっしゃる。



彼女の方を向くと、やけに真面目な顔をしている。


「ああ、かいちゃん。無線から、情報が来たの」

なんだよ。

「……急に仕事の話かよ」




「まぁそう言わず……っと」

橋引は、ふと玄関の靴箱の傍――――そこにある本棚に目を向ける。

「ん? これ、みんな、年代順じゃないね」

そこには、現代用語を解説する冊子が、発行年数バラバラに並べてあった。

「あぁ。それは、順番なんだ」

「何の?」

「内緒。年代で見ればバラバラだけど、それ以外で見るとその順番だから」


なんか、わかんないけどそうなんだ?

と彼女は不思議そうにする。

「精神感応系の人って、たまにそういうとこあるよね」


それから、前もって準備していた手を出してきた。

「じゃ、はい。これ」

掌にあるのは、引きちぎられた小さなペンダントだった。

「これ、視るの?」


「うん」


掌に乗ったそれをそっと握る。目を閉じる。



さざなみが聞こえた。

ああ、海は嫌いだ。


「ざっくりしたことしかわからないが、まず狙うのは海の見える範囲だな。それから……これは、海外か? 英語の文字が浮かんでくる」


それ、から……

頭が痛い。

痛い。

痛い。

痛い。















「こんなん、ばっかかよ」

チッと舌打ちをするが、気は紛れない。

「なにか見えた?」

「念力が必要なのは、何らかの下じきになった、持ち主をつれてくるためか」

橋引が頷く。


「そのペンダントも、引きちぎられてるでしょ。唯一持ってこれた遺品なの

「なるほどね」

藍鶴が、紙とペンを差し出して来る。

黙って雑な絵を描くと、そいつはそれをじっと見つめて、顎に手を当てた。

関係無いが、こういうしぐさがたまに艶っぽくて、つい、ときめいてしまう。

「そうだな。海がある範囲で、さらにこの形状の石がある場所……」


「恐らくは5940年代辺りから6250年代の山での噴火事件。遠くに時代にあった会社の建物が見えたからな」






俺が言うと、そいつは黙って考える顔をして、少しして、肩に手をのせてきた。


「ん?」

囁かれて口付けられる。え。

なに、なにこの流れ。

「ちょ、と、色ちゃん」

獣のような、目。

しばらく俺を堪能してから、また無表情に戻る。

俺は照れて顔が熱いというのに。



「そうだな、海が見える範囲というのは、確かか」

「重点的にはな。だが、油断するわけにも行かない。岩のそばに誰かが居た感じがするんだ」


「誰か、ね……他に、わかることは」


橋引が言う。

「例の、あいつらよ」

色が、青ざめる。

俺は、ただ黙っていた。色が、拳をぎゅっと握る

「わかった。できる限り俺もやる」

拳を握って怖い顔をしている、藍鶴色に近づき、そっと掌を握る。


「だから、そんな困った顔すんなって」

「……困った?」

不思議そうだ。わかっていないらしい。

「それより早く、会社に戻ろう」


きゅるる、と彼の腹の虫が鳴る。恥ずかしくて抱きついてきた色を、なにかを願うように、優しく抱き締める。

大丈夫。俺らは、生きてきた。

これからも。





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