aimed at precision: 





✕✕✕✕



 藍鶴と会ってから、まだ日も浅い頃、ある仕事をした。

クライアントはどこかの金持ちで、夫が7年以上帰って来ないというものだった。



7年も経過していたら、危難失踪とかで死亡届を出せるレベルなのだが、ご婦人は諦めていない。



しかし、他の家族や警察は、諦めモードらしい。ご婦人が「冬、彼が山登りに行ったきり」だというので、彼女から夫の私物でその日も着けていたが、ふもとで見つかったらしいネクタイを貰い、彼女の記憶と、夫の記憶を読み取ることに専念した。


目を閉じる。葉が見える。茶色い、大きな葉。

そして一面の土――

それだけが、見えた。

枯れ葉だらけの視界。目を、開く。


「……なにかわかったら連絡します」


まだ、情報が足りないから、これについては言わず、頭を下げて挨拶する。今日は、顔合わせというやつだ。


彼女の、このぼろい事務所には、似つかわしくない、贅沢なドレス姿と、豪華なルビーのペンダントが、癪だったが、礼儀は礼儀。


「期待してます。もし本当なら、お金、もっと払いますよ」


よく聞く台詞を残し、彼女は事務所のビルから立ち去って行ったので、俺たちは愛想笑いをした。

(本当なら、か……)







以前の依頼者もこんな感じだった。

『遠くまで嗅覚が利くって事ですか? うちの友丸君の方が、お利巧さんですね』

『友丸って……犬と、生身の人間を一緒にしないでください』

『袋の匂いで明日用意してるご飯がどんなフードかもわかるんです。

それに比べると友丸君のお利巧さんに次いで、まぁせいぜい、人間というところですか?』

『ですから……』

『まぁ、人間としてのあくまでもほんの少し当たる範囲での天才とでも言わせて貰いましょうか。――――それで、ちゃんと骨っ子は見つかるんでしょうね』

『ワン!!!』

『あらー、来てくれたの?』


犬と比べるし勝手に能力を決めつけて上に立とうとする、無意味なマウントを取り出して面倒だった。





――――わかっている。

大方、依頼する側はその程度の認識なのだという事は。

なのに、いつも、不愉快になる言葉だ。


どうせ褒められても好かれても、惨めにしかならないのに。

期待なんか、してないくせに。



















「葉っぱが見えた」


 デスクで、契約関係の書類にサインを書きながら、俺は、普段のパートナーであり、会社では、大抵、虚ろな目で、隣の椅子に座ったまま動かない藍鶴に言う。


「葉っぱ?」

そいつは、不思議そうに俺を見る。

葉っぱが見えた。

俺がわかるのは、それだけ。

「なにそれ……どんな?」


藍鶴は興味を引かれたのか、形や、葉の色を深く聞いてきて、ある地方にしか生えない桜の葉だということまで、教えてくれた。

こいつは、そういう知識がなぜか無駄にあるのだ。


その後俺は、透視やらなんやらに疲れきったのでその日は寝てしまった。



 





数カ月後。

藍鶴色は、一人で下見に行って 帰ってきた。

いつもに増して変で、手には瓶を持っていた。


「おかえり」


と言ったが返事をしてくれない。代わりに、スーツを着た、虚ろな目の藍鶴は、瓶をこちらに見せてくる。



「なんだ、それ」

「これだ、夫」


中に入っているのは、枯葉。枯葉が詰まっている。

「へえ……」


「かいせが見たのが、夫だよ。枯葉になっていた」


「ハハッ、見つからないわけだな」


藍鶴は笑わなかった。

「俺らじゃなかったら見つからないな」という冗談は交わした、けれどその後。

彼はふらついて――意識を、失った。

ガタガタ震えて、何か、発狂して。


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