prologue



「待って。俺、まだ、シャワー浴びたりしてない」

ちょっと恥ずかしそうに見つめてくる彼に、俺はどうにか理性を保って答える。

「そうじゃない」

俺達の関係。

言葉にするならバディとか、パートナーとか、……恋人とか。

こいつが家に入り浸って居るくらいの気の置けない関係である。

「仕事だ」



 俺達が居るのは、地方警察に試験的・秘密裏に設置された特異能力科という部署。

特殊事件の捜査や災害支援を担っている。

その実態は、この世界に稀に存在する、超能力や霊能を主とした特異体質・技能を持った人たちの寄せ集めである。

捜査に特異な力を用いるというまだ試験的な部署だが、未解決事件を解決したこともある。良い言い方をするなら、選ばれた特別な存在。

……だけど、それは代わりが居ないという事。精神感応系の能力者なんかは、よく連れ回されている。

藍鶴色の場合もそう。

「他の人が出来ないから」というだけの事を、他の人の手柄の為に酷使されるなんてこともざらにあった。 


――――ので、彼からすると消耗だけが激しいのである。

「仕事?」

色が怪訝そうに俺を見る。

「仁郎さんが言ってたの?」


「所長、な」

特異能力科、特殊未解決事件対策本部・事務所所長 英賀仁郎(えいが じんろう)。

よく連絡を寄越す癖に普段は事務所に居ないので、何をしてるか不明だ。

「いや、指示はもっと上らしい」


ふうん、と彼は少し不満そうに眉を寄せている。

「緊急の仕事は無かったと思うけど」


――――ので、彼からすると消耗だけが激しいのである。

少し不満そうに眉を寄せている。



「さぁな。でも、会社が探してるってさ」

先に用件を告げる。 

「また?」

彼は、いやいやと首を横に振った。

わかる。

俺だって、あいつの立場ならそうしたい。

精神が壊れても、そこに居続けなきゃいけないなんて、そんなの、拷問だ。

一緒に逃げてやりたいのだが、訳あってなかなか、それさえもできないでいる。



「しばらく休むって、居ていいって言ったのに……かいせも、追い出す」

涙目で睨まれたので、よしよしと頭を撫でてみる。








「追い出してないだろ? 鍵だって渡してるのに」


言うと、彼は納得したように俺に手を伸ばしてきた。

「そっかぁ」

近づくと、抱きしめるように背中に腕が回される。

「えへへ……」

目の前で、ふにゃんと笑う顔。

とくん、とくん。

心臓の音を間近で感じる。

温かい。

「色――――」


と。いうところで

改めて、畳、彼の足下に目を向けた。

「つーか、それよりなんだこれ。完成させんの大変だったんですけど……」

ばらけたプラモを指差してささやくと、藍鶴――藍鶴 色(あいづ いろ)は、

知りませーんとでもいうように、ふいっと顔をそらす。


 パーツはひとつひとつが、凡そ組む前のようになっていて、今箱から出したみたいな感じだ。それ自体が一種の芸術性すら感じられ、むしろ怒る気にすらならなかった。


 まあ前は、同じようにストーブを破壊しやがったから、冬場買い直すのが怠かったが。
















嫌いなものを集める習性。

細かく分解する習性。


色は俺の思考など知る由もなく、愛しそうに胸元に頬ずりして、目を細めている。

 寂しかった。嬉しい。遊んで。

そんな感情だけが伝わって来るようである。

可愛いなぁ。


「あー……もー!」


なんか、もう、今更正常に判断出来ないや。

「色」

 呼んでみる。顔を引き寄せられて口付けられる。

彼が無防備な体勢なのもあって、ドキドキしてしまう。

目の前の色はにへ、と緩んだ笑顔を見せている。


「ん……お仕事より、かいせと、いちゃいちゃしてたい、な」


にへ、と笑って言われて、俺はうっかりほだされそうになる。

知ってる、いつもの手だ。こいつは、誰かを陥落させるのがうまい。


 「また、そうやってー」


それとも、俺だから?



「――それでも。お前、今呼ばれてるんだよ。命令は、逆らっちゃだめ。終わったらいっぱい甘やかしてやるから」


じわあ……と、彼の疲労でくぼんで隈のできた目が、涙で潤んで来る。


「……あはっ、あはははは、あはっ、あは、はは」


うまく泣けないから、彼は笑った。悲しそうに笑う。俺だって断って、こいつが気のすむまで一緒に居たいけれど、そうもいかない。起き上がらせて、目元の涙を手の甲でぬぐってやる。うえっ、うえっ、と、そいつはえずくような声を出した。苦しいだろう。

背中をさすって、よしよしと撫でる。

少しして泣き止むと、濡れた目で、そいつは微笑んで聞いてきた。

「かいせも、行く?」


俺は休みだっつーの、お前のせいで福引き抽選会間に合わんっつーの、と言ってやりたかったが、

はあ、と諦めの息を漏らし、行くなら、お前も戻るな? と聞いてみる。


彼の返事は抱擁と「いやだ」だった。

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