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たくひあい
prologue
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いくら『上』からの命令だと言っても、休日のひとときを楽しんでいた俺に、電話が来たときは泣きたくなった。
嘘だろ……これから、スーパーの福引きがあんだよ。列が。せっかく取った先頭が。
全部が台無しになるような急用だ。
よっぽどのもんじゃなきゃ許さん。と怒りに拳を固める俺の耳に、電話越しに社長からの声。
「藍鶴が、いなくなった。探せ」
あー、はいはい。
高いところからの方が探しやすそうだから、スーパーから出ると、塀を登り、どこかのお宅の屋根に勝手によじのぼった。
「よっし」
捜索、開始。
目を閉じて一心に念じる。藍鶴、どこだ……藍鶴……
人間の視覚は不思議だ。眼球以外の神経が、画像を拾ってくる原理については、まだ科学的にもよくわかっていないが、いわゆる、心の目、は存在する。
俺はその心の「視力」がいいらしく、会社にそれを買われている。
俺たちがいるのは、つまり、そういう世界。
今だって、脳裏に浮かぶ風景を足し算して、居場所を割り出していて……
「視えた」
頭の中に、見慣れた場所が映った。
「あー、いー、づーくん」
写った風景からしても、居場所はわかりやすかった。あいつが会社をサボタージュしてまで来る場所なんか、限られている。『そこ』のひとつは、俺の居る、ボロアパートだった。
カンカンと抜け落ちそうな錆びた階段を登り、自分の部屋のある202号室へ。
ドアの前にチャイムがあるが、ピンポン、と押しても、居留守の常連の奴のこと、どうせ出てくれないので、っていうか自宅だし、鍵を開けて中に入る。
幸い、チェーンはかかっていない。冷たい空気をまとう短い廊下を歩いて、2LDKの、一部屋のふすまを開く。
「あーいーづーくん」
長めの黒髪を肩に垂らし、背中を丸めて、縮こまりながら、そいつはケタケタ笑っている。
足元では俺の、ロボ君一号1/50スケールのプラモが、バラバラになっていた。
……あーあー。
この解体具合はまた何か、嫌な案件があったな……
未だ熱心に分解を続ける背中も、それを物語っている。
「確保」
彼の背に肩から覆い被さってみた。彼はこちらを見もせずに「かいせ……」と俺の名を呼んだ。
「おかえりー」
「はい、ただいま」
そのまま押し倒すと、藍鶴は肩から上を砕きかけのプラモ共々、畳に倒された。
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