ー3 ー2

 デルグの民にとって統治者は必要であっただろうか?


「……」


 衛士によって捕らえられた町民はキャルナークを睨む。税を多く取り、屋敷からほとんど出て来ず、騎士を広場に晒上げた。民のなんぞに金を、食べ物を、施したことはない。


 噂であっても、散財を繰り返すという統治者は民に必要ない。


 その町民はさらし首となった。


 その首を埋葬しようと触った者はキャルナークによって手首を切り落とされ、抗議した者は足を折られた。腐った首は骨になるまで放置され、キャルナークが砕いて消えた。


「探せ!」


 衛士やメイド、妻にまで命令した。だが、いくら屋敷の木や壁の隙間に至るまで探しても町民が投げたという宝石は無かった。窓の外に仲間がいたとしたらキャルナークが探す宝石はすでに金貨や銀貨に替えられている。


 彼にとれる選択肢はもう一つあり、それは希望的観測と彼自身も気付いていた。


 妻の親族から兵士百人を借りたキャルナークは街の民家を捜索し始めた。一日目は相手にされる家だけを探し、二日目からは扉を強引にあけて捜索し始めた。


 最終的に一か月も続いた捜索は町人からの反発も強い。屋敷には毎日のように抗議の棒切れが投げ込まれ、強硬な町民は暴徒となって兵士やキャルナークを攻撃した。


 全て、広場に血だまりを作った。


 兵士も見つからぬものを探し続ける気力もなく、ほとんど一週間で彼らは仕事を止めていた。キャルナークの前でのみ勤労を装い、町民と分け隔てなく笑いあっていた。


 忍んで町で探していたメイドから妻はそのことを知っていた。キャルナークに告げ口することも考えていたが、空っぽのガラスケースを眺める夫を見かけて断念した。


 たった一つの宝石を探して多くの町人を殺したキャルナークは領地外でも有名な存在となった。


 悪逆のキャルナーク。


 屋敷に住む人間はその噂を知ったとき、酒場であれ花屋であれ床屋であれ同じような言葉を言った。


「憐れだ」


 その理由には口を開けなかった。


 宝石を探し求めてキャルナークは各地の商人を領地に招きいれ、その眼に叶うものであれば買うと宣言した。税は上がり、いくらかの抗議は手を切り落とされた人間が貼り付けにされたことで収まった。


 妻は知りうる商人を呼んでキャルナークに合わせた。


 豪華な宝石は彼の目に叶うものではなく、妻は銀貨に収まる範囲で商人から服を仕入れた。彼が欲する宝石が現れた時のために金貨は執務室の引き出しに入っている。


 多くの商人がキャルナークに豪華を謳って宝石を売り込んだが、ガラスケースは空っぽのまま。妻に与える宝石が増えるばかりで、商人が商人を呼んで屋敷はまた有名になった。


「石食い」


 ある商人がキャルナークをそう呼称すると、彼は牢へ商人を閉じ込めた。目的の宝石が見つかるまで商人は許されなかった。

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