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妻が双子を産み、一方は親族の元へ、一方はキャルナークの手の中へ。後継者たる男児は親族が受け取り、政略結婚の道具としての娘は彼に残った。夫と妻は馬車に連れ込まれる男児を悲し気に見送った。
メイドが産んだ子供たちを方々に散らすと決めたのは妻であった。王からの使者が増税を指示し、騎士の刃によって脅したからである。キャルナークは錆びた剣で対抗したが、細い腕では役に立たなかった。
生活が苦しくなるのを見越し、幼い子供たちとその親たるメイドに暫く困らない金を与えてデルグ郡以外の土地に向かわせた。残ったのは顔に痣のある五人のメイドのみである。
乗合馬車や親族の伝手も使っての移動であり、訝しんだ妻の両親は帰還するように指図した。それは愛ゆえの原理である。
「断る」
贅沢な紙面の使い方であった。
町民と村民は税が唐突に倍増したのを良しとはしない。だが、町民は広場に飾られるのを嫌ってそれに耐え、村民だけが広場に雁首を並べた。公開処刑であった。
その様子に顔を歪めた商人のいくらかは屋敷に訪れるのを止め、キャルナークの宝石探しはますます困難となった。
増税から一ヵ月、さらに王からの使者は税を増やすように勧告した。
キャルナークは無表情のままそれを受け入れ、衛士に頼んで立て看板を広場に突き刺した。町民は黙って受け入れるはずもなく、死を受け入れた人間のみが屋敷に向かって石を投げ込んだ。
次の月、一人のみすぼらしい商人風情の人間が宝石を売りに来た。人々が溜まる屋敷の門を堂々と通り、宝石を見せびらかして屋敷に入った。
「これだ」
商人は意外な顔をしたが、キャルナークが金貨を握らせて何も言わせなかった。それはどこからか買い叩いた原石に近い宝石で、まだ石つぶてと言っても信じられるようなものである。
恭しく首を垂れる商人は屋敷を出た。しかし、その商人の手には見せびらかしていた宝石は存在しない。町民は浅知恵で判断し、商人ではなく憎き統治者に向かって怒号を放った。
二四歳の誕生日、屋敷の人々は片手で数えられるほどだった。妻の側使いは親族の元に帰郷しており、夫と妻とメイド五人、そしてあの衛士のみが小さく誕生日を祝った。
蝋燭の小さな火はキャルナークの虚無的な顔を照らし、嬉し気に語る妻はまるで対比である。キャルナークと同時に一歳となった娘は原石に近い宝石を胸にかけ、それをまさぐっていた。
「どうして」
「ずっとあなたが可哀そうだったから」
「そう……そうか」
一歳の娘がキャルナークの足を鷲掴みにしたとき、彼は初めて周囲に笑顔らしい笑顔を見せた。
「ありがとう」
屋敷の揺れと共に蝋燭の火は倒れ、屋敷に雪崩れ込んだ町民と村民の怒りが木霊する。衛士が剣を抜いたが、キャルナークはそれを止めた。燃え始めた執務室の中で娘を預けたとき、彼は間違いなく笑顔だった。両親は残った金貨をメイドと衛士に与え、錆びた剣を持って部屋を出た。
衛士は迷った末にもっとも痣の酷いメイドに娘を託し、残ったメイドと衛士は金貨をその一人のメイドの懐に押し込んだ。
一歳の娘の目には焼け落ちていく屋敷が映り、逃げるメイドと商人が一緒だった。
後日、王の使者は焼け落ちた屋敷の前で町民にこう言った。
「この館の主は悪逆につき、その死を罪に問わず」
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