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 22歳を迎えたその日、キャルナークはメイドと衛士に小さく祝いの言葉を貰った。街は祭り一色で酒を飲みかわし、香辛料を使った料理が屋台に並んでいる。


 統治者の誕生日を覚えている者など一人もいなかった。


 屋敷には子供が新たな住民となり、その全てメイドが母親だった。キャルナークは屋敷を増築し、子供たちに与えた。


 税は通常よりも多いが苦しむほどでは無く、屋敷から悲鳴が響くこともない。だが、キャルナークは無表情だった。ケーキを頬張るときでさえ、甘い砂糖が多量に使われた高価なものであっても彼の表情を変えることは出来なかった。


 そこに数台の馬車が屋敷の前に到着した。


 メイドらは急いで屋敷の体裁を整え、キャルナークは普段着から正装に着替えた。屋敷には税によって少ないながら調度品が増えたことにより、屋敷はほんの僅かに華がある。


 馬車から降りてきた女はそれを見て残念そうに目を細めた。


「悪逆領主、もっと豪勢な生活をしてるものと思ってたわ」


 女の父は街で情報を集めさせ、悪逆領主とキャルナークが呼ばれても尚娘をここに送り出した。


 キャルナークの迎えは儀礼に欠け、メイドも衛士も同様であった。しかし、人を迎え入れようとしてくれるだけでも彼女には良い印象であった。


「話はこちらで」


 衛士ではなく、キャルナーク自身が部屋に案内しそのまま会話へと繋がる。


 端的に女は婚姻を迫った。


 親族が根絶やしになっているキャルナークは結婚し子を設ければ、そのまま女の一族がデルグを支配できる。キャルナークは無表情でそれを受け入れた。


 代わりに、キャルナークは女の親族を招く事を拒んだ。式は女のメイドや執事を含めて尚も女の知るよりも遙かにみすぼらしいものになり、今までとはかけ離れた生活をする事を覚悟させた。


 キャルナークは結婚式の費用を当然の如く臨時の税で賄った。屋敷に貯金はあるが、給料が全てだったからだ。女は、妻は顔を顰めつつも受け入れた。


 メイドらと妻の会話は日に日に増えていく。


 ほとんど自室から外に出ない夫に変わり、妻は領地外へ馬車を走らせる。そのほとんどは親族が治める領地に向けてであった。キャルナークは何も咎めず、街を遠くから眺めるだけである。


 毎回、妻は何個かの調度品を持って帰ってきた。壺であり、絵画であり、もしくは宝石。キャルナークは差し出される豪華な装飾をもつそれらを一瞥し、メイドに預けた。


 何度それを繰り返したか、ある日、妻が持ち込んだ一つの宝石に彼は手をおいた。


 初めてのことだった。


「お気に召して?」


 女にとっては数ある宝石、それも原石に近く価値の低い宝石であったが、夫に興味を持たせるものは何よりも大事だった。キャルナークは白い布でそれを包み、執務室の一角に置いた。


 ガラスのケースを作らせ、その手入れも自らが行った。


 酒に酔った町人数人が執務室の扉を蹴破ったのは半年後である。

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