第2話 逃亡
「それで、これからどうするのですか?」
裏庭といってもその敷地は広大、エル達がいるのはその一角、人目につきにくい場所である。
ただ、ここから宮殿を脱出するとなれば、周囲を囲む暴徒の波を越えねばならない。
「言ったろ、賊徒となるのだ」
エルは、追われる身にも関わらず、ケラケラと笑った。
「よし、出るぞ」
エルは、ユーリアの手を引き、歩幅短く裏庭を進み始めた。
そして、裏庭を囲む群衆に近づけば、
「おい、どうしたんだ?」
と当然、二人でウロウロしている所を、暴徒の一人に止められた。
エルは、やや顔を伏し、
「表から入ったらいつの間にか裏に来てしまったようで……」
「そうか。あんたらは家族か?」
「姉弟だよ。親は……死んでしまったよ」
エルは、まるで本当の流人のように、悲痛な、呆然とした声音で言う。
一体、今まで王族として過ごしてきた彼のどこにこんな才能があったのか。
「それは……、辛かったな。俺も生まれたばかりの娘を亡くした。だが、これで変わる。愚王の暴政はこれで終わるんだッ」
暴徒は、エルのでっち上げの境遇に同情を示し、さァ行くぞッ、と再び群衆の中へ入って行った。
エルもユーリアの手を引いてその中へ紛れ込んだ。
揉まれるようにして進んでいると、暴徒達の絶叫にも似た言葉が、嫌でも耳に入ってくる。
その中から時々、アイリスさまッ、と人の名が聞こえてくる。
(アイリス……様、ねぇ)
エルは、顔をしかめた。
『アイリス』と聴けば耳が痛くなる。
ほぼ確実にエルが知っているある友人のことである。
群衆に揉まれるなか、彼は努めてその名前が聞こえないように振る舞った。
二人はしばらくして、群衆の外側へ出れた。
今は混乱の渦中、誰も一人一人の素性なんて気にしない。
エル改めホールは、ユーリアを連れ、駆ける。
背後で、王宮の燃える音がした。
「………」
彼は振り返らない。
皇永歴一〇七七年、エルタネア王国第三王子、エル・ワール・フィルデリアは、地上より姿を消した。
世界煌々 八重垣 東風 @Yaegaki_tohu
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