第三章:危ういバランス

もちろん、すべてが順風満帆ではなかった。45歳の会社員・麻美と付き合っていた時のことだ。麻美はキャリアウーマンとしての強さを持つ女性だった。ユウスケは彼女のマンションに通ううちに、同居している69歳の母親・和枝の存在を知った。


和枝は物静かで、いつも部屋を年相応の身なりで小綺麗にしていた。麻美が残業で遅くなる日、ユウスケは和枝と二人きりで韓流ドラマを見ながら夕食をとることもあった。スマホやパソコン操作を丁寧に教えたり、亡き夫との思い出を静かに語り、ユウスケは耳を傾けた。ある夜、和枝が「あなたのような子が、私の孫だったらなあ」と呟いた時、ユウスケはふと、禁断の考えが頭をよぎった。


──この方も、きっと寂しさを抱えているのだ。


彼は慎重に、しかし確実に和枝へのアプローチを始めた。韓流ドラマの話を聞き、挿入歌を一緒に口ずさみ、軽いスキンシップを試みた。和枝は最初こそ驚いたが、次第にユウスケの甘い言葉に頬を染めるようになった。


その関係が麻美にバレたのは、ある雨の土曜日の午後だった。急な発熱で早退した麻美が、リビングで母親の膝枕をしながら彼の髪を撫でているユウスケの姿を目撃してしまったのだ。


「あなた…何てことを!」

「麻美さん、落ち着いて。和枝さんはただ──」

「黙って!出て行って!二度と来ないで!」


怒号と泣き声が飛び交う中、ユウスケはズタズタにされた気持ちでマンションを後にした。その後、麻美からは長文の怒りのメッセージが届き、和枝からは「ごめんなさいね…」という切ないメールが来た。この一件で、彼は「線引き」の難しさと危うさを痛感した。

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