メイドは部活動に入りますか?

亜未田久志

第一着


 私立星津宮ほしつのみや学園。俺が通うこの学園には「メイド部」なる胡乱な部活があるらしい。

 かなり規模がデカいマンモス校である我が学び舎、俺もその全てを把握しているわけではない。だからその部活も噂程度のものだと思っていた。

 まさか、だ。

 自分が巻き込まれるとは思わなかったんだ。


「拉致だろこれは」

「招致です」

「……」


 誘拐とも言う。

 腕っぷしには自信があったのだが、俺より力の強い濡羽色の長い髪の女生徒に無理矢理、部活棟の一室まで連れてこられてしまった。


「目的はなんだ」

歌川慈宏うたがわしげひろ様、あなたは『ご主人様』に選ばれました」

「……まさか」

「イグザクトリー♫ その通りでございます。ここはメイド部。メイドを研究し探求し堪能する究極の部活……それを享受する権利をあなたに差し上げます!」


 驚きとか困惑の前に「本当にあったのかメイド部」という謎の感動に包まれてしまった。そこには俺を連れて来た生徒含め四人の女子がいた。

 一人は言うまでもなく俺を連れて来た奴、ロングスカートのメイド。

 一人は茶色いボブカットで、スカート丈の短いフリルだらけのメイド。

 一人は銀髪碧眼で、着物にフリルを付けた……これもメイド服なのか?

 一人は金髪に染めた(前の一人と比べると染めているのが分かる)ジャージに申し訳程度のフリルがついた、これはメイド服じゃないだろ。

 そんな個性豊かな四人の少女たち。俺も男子だ。おまけに全員美人とくれば浮かれもする。浮かれもしたい、浮かれたい、だが椅子に紐で縛り付けられて喜んでいたら変態だ。


「この紐を解いてくれないか」

「いやです♫」

「何故」

「逃げるつもりでしょう?」

「逃げちゃだめなのか」

「はい!」


 うーん、困った。向こうのが脚が速い、力も強いと来たら抵抗のしようがない。もしも逃げれたとしてもいたちごっこが始まるだけだ。俺もそんな無駄な事はしたくない。しかし毎日鍛えていたはずなのに、細腕の彼女のどこに俺を組み伏せるだけの力があるのだろう? 謎だが説明を求める気にもなれなかった。


「ご主人様?」

「違うが」

「いいえ、あなたは選ばれた者なのです! この状況を受け入れるべきです!!」


 断言されてしまった。受け入れる、か。確かにそうすればこの状況からは解放されるのだろうが、そのご主人様とやらからは厄介事の臭いしかしなかった。

 ただでさえ日頃の喧嘩のツケを払うので手一杯なのにこれ以上厄介事を抱え込みたくはなかった。

 しかし状況は詰みに近い。なので困っている。


「理由を聞かせてくれないか。なんで俺なんだ?」

「ふふふ、よくぞ聞いてくれました!」


 それを待っていたと言わんばかりに自信満々だ。いったいどこにそんな自信が――


「抽選の結果です!」

「……は?」

「で・す・か・ら! 抽選の結果です!」

「申し訳ない、俺は耳がおかしくなったらしい。抽選がどうとか」

「ご主人様の耳は正常ですよ?」

「そうか、俺はくじ引きで決められたのか。帰っていいか」

「ダメです♫」


 キレのいいスタッカートが俺にトドメを刺す。文字数にして千文字弱の思考とやりとりを経て得られた情報がこれか。

 俺は「降参だ」と言う。これ以上のやり取りは無駄だと悟ったのだ。足掻いてみてもいいのだが、実は喧嘩のあとなので疲れているのだ。早く帰って眠ってしまいたい。出来ればこの出来事も忘れて。


「いい返事です」

「そうだろうか」

「はい! というわけでご主人様」

「なんだろうか」

「入部届にサインを」


 ……そうか、ここ部活動だったな。

 俺は不承不承ながら入部届にサインをする。縄はその時、解かれたが逃げる気力もなかった。

 空手部との二足の草鞋を履くことになるが、そもそもここで何をやるか知らない。


「そういえばここで何をするんだ?」

「メイドとすること言えばひとつです」

「すまん。わからん」

「ティータイムですよ♫」


 ティータイム……なんだか自分からはほど遠い響きだった。

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メイドは部活動に入りますか? 亜未田久志 @NAMELESS_CARNIVAL

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