第23話 白馬の騎士、趙雲子龍ふたたび
徐州城の城壁は、絶え間ない衝撃に悲鳴を上げていた。
「撃てッ! 一歩も近づけるな!」
「くそっ、キリがないぞ! 次から次へと……!」
俊樹は城壁の上で指揮を執りながら、眼下に広がる曹操軍の波状攻撃に歯噛みした。
先鋒を務めるのは猛将・夏侯惇(かこうとん)と夏侯淵(かこうえん)。
彼らは兵を消耗品のように扱い、死体の山を乗り越えて城門へと迫ってくる。
だが、俊樹が本当に恐れていたのは、彼らの武力ではなかった。
(……いやらしい。動きに無駄がなさすぎる)
俊樹の『オモイカネ(知恵)』が、敵軍の背後にある「意思」を感知していた。
こちらの矢が尽きるタイミングを見計らって突撃させ、俊樹が『スサノオ(暴風)』で吹き飛ばせば、即座に散開して被害を最小限に抑える。
俊樹の権能(チート)の射程やクールタイムを、完全に計算に入れて動かしているのだ。
「郭嘉(かくか)に荀彧(じゅんいく)……か」
曹操軍が誇る天才軍師たち。
彼らは俊樹という「神の力を持つイレギュラー」を、ただの強力な攻城兵器として分析し、攻略しようとしている。
精神的疲労が、俊樹の体力を削っていく。
「俊樹さん! 東の壁が破られそうです!」
血濡れの玲花が駆け寄ってくる。彼女も吸血鬼の身体能力で奮戦しているが、数万の軍勢相手には分が悪すぎる。
「わかった、すぐに行く! ……くそ、僕が二人いれば!」
俊樹が天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)を構え、東へ走ろうとしたその時。
城門の方角から、轟音が響いた。
ドガァァァン!!
「ガハハハ! 開いたぞォ! 皆殺しだァ!」
隻眼の猛将・夏侯惇が、巨大な槍で城門をこじ開けたのだ。
雪崩れ込む曹操軍の精鋭たち。
守備兵たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
「終わったか……」
劉備が絶望的な表情で剣を抜く。
もはやこれまで。俊樹がどれほど強くても、城内に侵入されれば守りきれない。民が虐殺される未来が脳裏をよぎる。
――その時だった。
曹操軍の最後尾。赤と黒の旗で埋め尽くされた大軍の海に、一筋の「白」が走った。
「――ん?」
本陣で指揮を執っていた夏侯淵が、背後の騒ぎに気づいて振り返る。
異常事態だった。
後方の部隊が、まるでモーゼの海割りのように左右に弾け飛んでいるのだ。
「敵襲!? 馬鹿な、背後に敵など……」
その「白」は、疾風だった。
白馬に跨り、白銀の鎧を纏った一人の若武者。
彼は単騎で数万の敵陣に突っ込み、正確無比な槍捌きで道を切り開いていた。
ヒュンッ、ヒュンッ!
槍が閃くたび、曹操軍の兵士が急所を貫かれて絶命する。
無駄な力はない。美しいまでの洗練された「武」の極致。
若武者は戦場を駆け抜け、混乱する夏侯惇の背後にまで肉薄した。
「常山(じょうざん)の趙雲(ちょううん)子龍(しりゅう)! 義によって助太刀いたす!」
朗々たる名乗りと共に、趙雲の槍が夏侯惇に襲いかかる。
「ぬおっ!?」
夏侯惇は間一髪で槍を受け止めたが、その衝撃と予想外の奇襲に馬から転げ落ちた。
「き、貴様は何者だァ!」
「公孫瓚(こうそんさん)の命を受け、劉備殿への援軍に参った! ……どけッ!」
趙雲は馬を躍らせ、城門の前で仁王立ちとなり、侵入しようとする敵兵を次々と突き倒した。
その凛々しい姿に、俊樹は城壁の上で叫んだ。
「来た……! 待ってたよ、子龍ッ!!」
虎牢関での出会いから数ヶ月。
北方の公孫瓚のもとへ帰ったはずの彼が、約束通り駆けつけてくれたのだ。
俊樹の胸に、消えかけていた闘志が再び燃え上がる。
「玲花! 行くぞ! 反撃だ!」
「はいっ、俊樹さん!」
俊樹は城壁から飛び降りた。
着地と同時に『スサノオ』の暴風を放ち、周囲の敵を吹き飛ばす。
そして、趙雲の隣に並び立った。
「遅いよ、英雄!」
「これは軍師殿! いや、お待たせいたしました!」
趙雲は爽やかな笑みを浮かべ、俊樹と背中合わせになる。
右に神剣を持つ俊樹。
左に神槍を振るう趙雲。
そして上空から敵を強襲する吸血姫・玲花。
「さあ、ここからは俺たちのターンだ!」
最強のトリオが完成した。
夏侯惇と夏侯淵が体勢を立て直し、怒り狂って襲いかかってくる。
「小賢しいわ! 雑魚が増えたところで何になる!」
「雑魚かどうか、その体で確かめてみな!」
俊樹が天叢雲剣を振るう。神気が夏侯惇の豪腕を押し返す。
隙を突こうとした夏侯淵の矢を、趙雲が槍で叩き落とし、電光石火の突きを放つ。
「ぐわっ!?」
夏侯淵の肩が貫かれる。
さらに玲花が死角から夏侯惇の足を切り裂く。
「ぐぅッ……! 引けッ! 一旦引くぞ!」
先鋒部隊の崩壊。
夏侯惇たちは撤退を余儀なくされた。
城門前に残されたのは、無数の敵の死体と、三人の英雄の姿だけ。
「うおおおおお!!」
「助かった……助かったぞ!」
城壁から、徐州兵たちの割れんばかりの歓声が上がった。
劉備が駆け寄り、趙雲の手を固く握りしめた。
「おお、子龍! よくぞ参ってくれた……!」
「劉備殿。遅くなり申し訳ありません。……この趙雲、主命により、この戦が終わるまで貴方様の槍となりましょう」
趙雲の忠義に、劉備の目から涙が溢れる。
俊樹もまた、頼もしすぎる援軍の到着に安堵の息を吐いた。
だが、これはまだ前哨戦に過ぎない。
本陣には、底知れぬ智謀を持つ郭嘉と、冷徹な覇王・曹操が控えている。
「勝負はこれからだ。……曹操、あんたの思い通りにはさせない」
俊樹は地平線を埋め尽くす曹操軍の本隊を睨みつけ、剣を強く握り直した。
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