第4話 殲滅と分配、そして道連れ
俊樹の足元には、肉塊と化した九人の盗賊が転がっていた。
だが、襲撃者は十人いたはずだ。
「……あ、あいつ! 一人逃げやがった!」
村人の一人が叫び、指差す。村外れの林へ向かって、手傷を負った盗賊の一人が必死に這うように逃げていく後ろ姿が見えた。
村人たちが鍬を構えて追おうとするが、俊樹はそれを片手で制した。
「追わなくていいです」
「で、でも! 仲間を呼ばれたら……」
「逆ですよ。巣穴を案内してもらうんです」
俊樹の瞳が、爬虫類のように冷たく細められた。
害虫は一匹残らず駆除する。それだけでなく、彼らが溜め込んでいるであろう「資産」も回収しなければならない。この乱世を生き抜くには金が必要だ。
「皆さん、死体の片付けをお願いします。すぐに戻りますから」
俊樹は風のように駆け出した。
『スサノオ』の権能で聴覚を強化し、逃げる男の荒い息遣いと、草を踏む音を正確に追跡する。
林を抜け、岩場を越えた先に、目立たない洞窟があった。男はその中へと転がり込んでいく。
俊樹は足音を殺して入り口に近づいた。中から話し声が聞こえる。
『お、親分! やべえ、全滅だ! バケモノがいやがった!』
『ああん? 何言ってやがる。酔っ払ってんのか』
中には逃げ帰った男を含め、四人の気配があった。留守番をしていた残党だろう。
俊樹はリュックからミネラルウォーターを取り出し、一口飲んで喉を潤すと、音もなく洞窟の中へ踏み入った。
「――お話中、失礼しますよ」
暗がりに響く、場違いなほど爽やかな声。
焚き火を囲んでいた山賊たちが一斉に振り返る。
『あ!? 誰だテメェ!』
『こ、こいつです親分! こいつがみんなを殺したんです!』
逃げ帰った男が腰を抜かしながら絶叫する。
奥に座っていた大柄な男――親分らしき男が、ニヤリと笑って巨大な蛮刀を手に取った。
『へえ、ガキ一人じゃねえか。俺の手下をやってくれたそうだな。ここに来たのが運の尽きだ、なぶり殺しにして……』
男の言葉は、最後まで続かなかった。
「喋らなくていいよ。どうせ死ぬんだから」
ヒュンッ。
俊樹が拾った石を指で弾いた。
『アメノタヂカラ(身体強化)』によって弾丸ほどの速度で放たれた石礫(つぶて)が、親分の眉間を正確に撃ち抜いた。
親分は白目をむき、どうと後ろに倒れ込んだ。
『お、親分!?』
残った三人が恐慌状態に陥る。
俊樹は奪った剣を抜き、無造作に歩み寄った。
「命乞いは聞きません。君たちが村人にしたことと同じことをするだけだ」
あとは一方的な作業だった。
逃げようとする背中を斬り裂き、抵抗しようとする腕を切り落とす。
洞窟の壁に鮮血が飛び散り、断末魔の悲鳴が数秒だけ木霊して、すぐに静寂が訪れた。
俊樹は血糊を払い、洞窟の奥を改めた。
そこには、粗末な木箱が積まれていた。蓋を開けると、強奪したであろう銅銭の束や、貴金属、それに比較的綺麗な衣服や布地が詰め込まれていた。
「……悪銭だが、有効活用させてもらおう」
俊樹は洞窟にあった荷車に金目のものと食料、衣服を全て積み込んだ。
敵の命も財産も、全て奪い尽くす。それが俊樹の流儀だった。
村に戻った俊樹は、荷車いっぱいの物資を見て呆気に取られている村人たちの前に、ザラザラと銅銭の山をぶちまけた。
「と、これは……?」
「盗賊のアジトから回収したものです。村の復興に使ってください」
俊樹は荷車の荷物を三等分し、そのうちの三分の一にあたる金銭と食料を村に残した。
全額は渡さない。自分が回収したのだから、自分が一番多く取る。それが当然の権利だ。
残りの三分の二――当面の旅費としては十分すぎる額と、上質な衣服を自分のリュックや袋に詰め込む。
「さて、これで憂いはなくなりました。僕は行きま
す」
村人たちは銅銭の山に感謝しつつも、俊樹を見る目はやはり恐怖に染まっていた。アジトを壊滅させ、全てを奪ってくる冷徹さと実行力。それは彼らの理解を超えていた。
俊樹は誰にも見送られることなく、村を後にした。
だが、村外れまで来たところで、後ろからパタパタと走る足音が聞こえた。
「待って! 俊樹さん!」
玲花だった。
彼女は自分の体ほどもある大きな荷物を背負い、息を切らせて追いついてきた。
「玲花ちゃん? どうしたんだ」
俊樹が足を止めると、玲花は倒れ込みそうになりながら、俊樹の服の裾を掴んだ。
「私も……連れて行ってください! 村にはもう、お爺ちゃんもいないし……」
村人のよそよそしい態度に、彼女は耐えられなかったのだろう。そして何より、彼女の瞳には俊樹への強い執着があった。
「私、俊樹さんの役に立ちます! この辺りの地理もわかりますし、家事だってなんでもします。だから……」
「俺と一緒にいたら危険だぞ? さっき見ただろう、俺は平気で人を殺す」
「それでもいいんです! 貴方がいなければ、私はどうせ死んでいた命です。貴方の背中を追いかけたいんです!」
必死な彼女の姿に、俊樹は苦笑した。
彼女の覚悟は本物だ。それに、この時代の常識を知るガイド役は確かに必要だった。
俊樹は優しく彼女の荷物を持ってやった。
「わかった。でも、召使いとか奴隷みたいな扱いはしないよ」
「え……?」
「友達として、対等なパートナーとして来てくれるなら歓迎だ。一人旅は寂しいからね」
俊樹はポケットからハンカチを取り出し、玲花の顔についた煤(すす)を拭ってやった。
その手つきは、盗賊を殺した時とは別人のように優しかった。
「俺は敵には容赦しないし、利益はきっちり取る。でも、身内には甘いんだ。……俺を信じてくれる?」
「はいっ! 信じます、俊樹さん!」
玲花は花が咲いたような笑顔を見せた。
俊樹は、奪ってきた盗賊の荷物の中から、一番上等な絹の着物を取り出して玲花に手渡した。
「これに着替えるといい。ボロボロの服じゃ、可愛い顔が台無しだ」
「あ……ありがとう、ございます……!」
玲花は顔を赤らめ、着物を抱きしめた。
こうして、俊樹は忠実で愛らしいパートナーと共に、本格的な旅路へと足を踏み出した。
二日後。
懐も温かくなった二人は、目的の地、幽州・涿郡(たくぐん)に到着した。
奪った金で宿を取り、食事もしっかり摂ったおかげで、二人の足取りは軽い。
「ここが始まりの場所だ」
城門の前には、黄巾の乱に備えるための義勇兵募集の高札が掲げられ、熱気に包まれている。
俊樹は玲花の手を自然に握った。
「はぐれないように、手を繋いでおこう」
「は、はいっ」
玲花の手は小さく、温かかった。
人混みの中、俊樹は運命の出会いを探す。
特徴的な大耳の男、長い髭の男、そして虎のような髭の男。
彼らはすぐそこにいた。
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