第2話 ギルドの依頼
「よお、しばらくぶりだな。元気にしてたか?」
カウンターに肘をつき、可愛い受付嬢の顔を覗き込む俺に、ランカは処置なしとばかりに重いため息をついた。
「……リュードさん、私が言いたいこと、わかりますか?」
「まぁ、いつも言われていることだから、想像はつくぜ。あまり新人のやつらを
苦笑いしつつ答える。
しかしそれは、注意する相手が違うと思うぜ。
――俺はあいつら新人どもなんかあまり関わりたくなんかないんだ。なのに向こうからなんだかんだと文句を言って来るんだから仕方ない。
だが俺の予想は外れて、ランカは不機嫌そうに首を横に振った。
「もちろん、揉め事は勘弁して欲しいです。でも、今私が言いたいことはそれじゃないんですよ。やっぱり忘れてるんですね……」
そしてランカは、俺を恨みがましい目で睨む。
んん? なにか忘れてることなんかあったか?
「ん? なんのことだ? もしかして、デートの約束でもしてたか?」
「してません!」
ランカは受付のカウンターを苛立たし気にバンバンと叩きながら、「そうじゃなくて! リュードさんに頼みたい依頼があるので、手が空いたら受付に顔を出してくれるように頼んでたじゃないですか!」と怒鳴った。
「それなのに、リュードさんってば、半月近くも音沙汰なしで! おかげでこっちは、街の中をリュードさんを捜して歩き回ったんですよ! どこに行ってたんですか!?」
そういやそんな話を聞いていたような……?
悪いことしたな。最近は定宿にしている
ランカが捜しても、みつからないのは無理もない。
「悪い悪い。ちょっとこっちも立て込んでいたんだ。勘弁してくれ」
「立て込んでいたって、……あ! もしかしてまた、ギルドを通さずに勝手に依頼を受けてたんですね!? そういうのは止めてくださいって言ったじゃないですか!」
おっと、さすが敏腕受付嬢のランカさん。良い勘してるぜ。
「いやいや! まさか、そんなわけないだろ? なぁ?」
「なにが、なぁ? ですか! そんなんじゃ誤魔化されませんよ! ギルドを通さずに冒険者が仕事を受けることは禁止されているんですからね!?」
「……そんなことより、ランカ? 今夜一緒に飯でもどうだ? 美味い
「…………この状況で、そんなことを言えるリュードさんの図々しさは、尊敬します」
「ってことは、じゃあ返事はOKだな?」
「そんなわけないでしょ!?」
再びランカは、怒りに任せてカウンターをバンバンと叩く。
カウンターは厚い
そのボロボロのカウンターにさらなる虐待を加え、ひとしきり怒りを発散してから、ランカはハァハァと荒い息を吐く。
上気した顔が、なんだか少し、色っぽい。……なんて考えてるのがバレたらまた怒鳴られるから、表情には出さないが。
「あー、なんだ。それでその、俺に頼みたい依頼ってのは、どんなのだ? というか、まだその依頼は残っているのか? もう他の誰かが受けてたりするんじゃないのか?」
「……いいえ。ちゃんと残っていますよ。というか、街の中での調査依頼なんです。リュードさんの専門分野ですよ。とても他の冒険者には任せられないので、リュードさん用に取っておいてあるんです!」
「それはまた、面倒くさそ……いや、なんでもない」
面倒くさそうと言いかけて、ランカに睨まれたので慌てて、口を
というか、ついこの前ヤバい仕事を受けて酷い怪我をしたばかりだ。
しばらくはあまり面倒そうな依頼は御免なんだがなぁ。
まして今は、ポーションを切らした状態だ。危険な仕事なんか、とても受けられない。
ランカには悪いが、この依頼は断るのが無難か――
「依頼内容は、この街で起きている失踪事件の調査。報酬は満額ならレンツ金貨十五枚です」
「よし、引き受けた!」
我ながら酷い、変わり身の早さだった。
だが今の俺にとって、レンツ金貨十五枚の報酬はあまりに魅力的だ。
それだけあれば、十分使い切ったポーションを補充できる。
普段ギルドが俺に紹介する依頼なんて、その一〇分の一も報酬があれば良いほうだ。
今回は、破格なまでに報酬が良い。余裕で今までの最高額だ。
そりゃ、飛びつきたくもなるってもんだ。
「リュードさんなら、そう言うと思いました。……はい、これがその依頼票です」
そしてランカが差し出した依頼票には、依頼や報酬についての概要が書かれている。
その内容はこうだ。
=====================================
【調査依頼】
●依頼内容
職人街にあった、ブシュケ魔道具工房と、その工房の技師五人が全員、ある日突然消えてしまった。
彼らの行方の捜索と、事件性の有無の調査を依頼する。
※依頼主は、ブシュケ工房と付き合いがあった同業者の、エイマス工房の工房長である。
●報酬
依頼完遂時、レンツ金貨十五枚が支払われる。
完遂できなかった場合は、ギルドが達成率を評価し、その割合に応じた報酬が支払われる。
●依頼失敗
最低限、技師五人の行方について、
これが達成できない場合、依頼は失敗とする。
失敗した場合は報酬は支払われない。また、冒険者ランクの査定にマイナスの影響がある。
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ある日突然、魔道具技師五人と、彼らが働いていた工房そのものが綺麗さっぱり消えてしまったのだという。
職人が消えたというのはまだわかるが、工房そのものが消えるってのは理解しがたい。
そこを尋ねると、ランカはなんとも言えない表情を浮かべる。
「実は私も、依頼を受けたときにその工房のあった場所を見に行ったんですけどね、……アレはちょっと口では説明できませんね。リュードさんも自分の目で確かめてください」
そう言ってランカは、俺に工房の場所が記されたメモを渡してきた。
「そんなにおかしなことになってんのか?」
「はい。とんでもなく妙なことになってました。本当に綺麗さっぱり工房が消えてるんですよ」
「……工房って、……建物だろ? 建物って、そう簡単に消えるものだったか?」
「ええ。私も初めて知りましたけど、そうみたいですね」
ランカはそう言って、引き
なんでも、半月前の消失事件発生当時は、結構な騒ぎになったらしい。
「そのブシュケ工房と専属契約を結んでいた商会が、ヴェリタス商会なんですけど、そのヴェリタス商会の人もやって来ていて、工房跡地を呆然として見てましたよ」
「ヴェリタス商会ね。それはまた……」
でかい名前が出てきたものだ。
魔道具の売買に関しては、この街でほぼ独占状態のやり手の商会だ。
魔道具販売ならダントツでトップ。他の業種の商会を入れても上から五番には入る。
そんな商会と専属契約を結んでいたのなら、ブシュケ工房もどこにでもあるような普通の工房ではないんだろう。
恐らくは優秀な職人を抱えた、力のある工房だったはずだ。
「ま、いいや。話はわかった。そんじゃこの依頼票は貰っていくぜ」
「それはもちろん構いませんが、すぐに取り掛かってくださいよ。本当なら半月前にお願いしたかった依頼なんですからね? リュードさんがギルドから上級と認定されているのは、こういうときに役立ってくれるからなんだってわかってますか?」
つまりここで役立たないようなら、上級でいられる保証はないと言いたいのだろう。
「はいはい。わかってるって」
受け取った依頼票をヒラヒラと振りながら適当に返事すると、ランカは困ったものだと言いたげに小さくため息をついた。
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