北朝神衛衆の章

第一話 北朝神衛衆

 北朝神衛衆は、帝の盾であった。

 それ以上でも、それ以下でもない。

 戦を好まず、私怨で刃を抜かず、ただ命に従う。帝の盾である点は、南朝神衛衆と変わらない。

 ただし、その盾が立つ場所が違った。南朝神衛衆の背後には、里があり、人があり、血の繋がりがあった。北朝神衛衆の背後にあるのは、都と制度、そして命令である。

 棟梁は天羽静連しずつら

 京に在って政を読み、判断を誤らぬ男である。北朝神衛衆は、あくまで帝の側に在る組織であり、感情よりも秩序を重んじる。

 その棟梁の側に控えるのは長男、天羽静麻しずまである。

 冷静沈着、武芸に優れ、私情を挟まぬ。刀以外でも柳葉槍を操る。

 棟梁の下には、別式と呼ばれる十名がいる。

 彼らは互いを信じない。信じる必要がなかった。

 個として完成した者たちが、命の下に一時的に集められたに過ぎないからだ。

 別式に絆はない。あるのは技と役目、そして機会である。機会が与えられれば、腕を試す。

 それは武人として、あまりにも自然な衝動だった。

 静麻は、別式最強と謳われる暗丞あんじょうに深い敬意を抱いていた。

 一方で、その弟、統麻とうまは違った。

 次男であるがゆえに、統麻は棟梁になれない。

 剛剣の持ち主でありながら、振るう場を持たぬ男だった。

 強者と闘いたい。ただそれだけの願いが、北朝神衛衆の中では浮いていた。

 しかし逆鱗げきりんだけが、統麻に心酔していた。

 理由は単純だ。統麻だけが、感情を隠さなかったからである。

 北朝神衛衆は、まだ歪んではいなかった。だが整えられすぎていた。帝の盾として、余白を許されぬまま静かに、時代の底に沈んでいた。

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