献身的な看病(?)イベント

屋敷に戻って2日後、リヒルが熱を出して寝込んだ。あの日、雨に濡れたことが原因かもしれない。責任を感じた俺は、せめて兄らしいことをしようと、登校前にリヒルの寝室を訪ねた。


「リヒル、何か欲しいものはないか? 食べたいものや、見たいもの……何でも言ってくれ」


すると、熱に浮かされたリヒルは、潤んだ瞳で俺を見上げ、掠れた声でこう言った。


「……赤い、バラが……欲しいです……」


「……赤いバラ?」


俺の心臓が跳ねた。赤いバラ。それはこの世界が元になっているあの恋愛ゲームにおいて、愛の告白や情熱的なイベントの象徴だ。それを、この弱りきったタイミングで俺に強請るというのか?


(まさか、看病イベントからのルート確定フラグか……!?)


不謹慎ながらもニヤけそうになるのを必死に抑え、俺は庭の温室へ走った。


「待っていろ、一番美しいやつを持ってきてやる!」


トゲで指を刺すのも構わず、俺は公爵家が誇る温室で、最高級の朝一番に咲いたバラを摘み取り、意気揚々とリヒルの枕元に届けた。病床のリヒルは、届けられた大輪の花束を一瞥すると、


「わあ……ありがとうございます。すごくいい香り」


と、熱のせいかいつもより弱々しい微笑みを浮かべた。そして、すぐさま控えていたメイドにこう命じたのだ。


「これ、全部鍋に突っ込んで、煮てください」


……なぜ?


「バラって栄養価高いんですよ。食欲がなかったけど……薔薇のジャムなら少し食べたいです。……さすが兄様、無農薬ですよね?」


バラの花言葉もロマンチックな雰囲気もすっ飛ばして、バラは最短ルートで砂糖と共に煮込まれた。

俺が期待していた、潤んだ瞳で『兄様、綺麗です……』なんて囁き合う甘酸っぱい看病イベントは、甘い匂いの漂うジャムへと姿を変えた。


(……おかしい。イベントフラグを完璧に踏んだはずなのに、なにも始まらない……)


もしかして、イベントが発生しないのは好感度が足りないせいなのか。もっと献身的な姿勢を見せなければと、学園から帰宅後すぐに彼の寝室を訪れると、ベッドのリヒルが手招きをした。


「兄様……。今日、馴染みの商会の主人が、屋敷に御用聞きに来る予定ですよね?」


「ああ、そうだが……。何か、滋養のつくものでも頼もうか?」


俺は身を乗り出す。高級な果物か、それとも冷たい菓子か。弟の我儘ならいくらでも叶えてやろう。 だが、リヒルは熱に浮かされた瞳で、突飛なことを口にした。


「その商人に……『直径三十センチ以上で、表面に白い丸模様がある、赤茶色の巨大なキノコ』を注文してください。できるだけ、弾力のあるやつ」


「……キノコ?」


「はい。それであの辺に40センチ四方の木箱を置いて、そのキノコを上に置いてください。木箱を空中に浮かせる方法は後で考えよう……」


彼は部屋の窓から見えるハーブの植えられた、隣の空きスペースを指差して、場所の指定をする。


「???」


普段は謙虚なリヒルの願い。だが、その内容はどう考えても食材の注文ではない。庭に巨大なキノコを置く? 観賞用にしては趣味が悪くないか? 困惑しながらも、熱で弱っている弟の願いを拒む気にはなれず、俺は商会に大金を積んで、理想通りの巨大キノコを届けさせた。


(なんだコレ……)


翌朝届いた不気味なキノコをリヒルに届けると、バラを贈った時とは比べものにならないほどの満面の笑みを浮かべた。まあ、弟が喜んでいるならいいか。 巨大キノコが効いたのか、夜にはリヒルの顔色に赤みが戻っていた。少し元気が出てきたせいか、彼の要求はさらに具体的、かつ不可解な方向へとエスカレートしていく。


「兄様。金貨……大きめの金貨を、あの木に吊るしてください」


リヒルはキノコを置いた場所の近くにある木を指差した。俺は弟の意図がわからないまま、それでもメイドたちに命じて金貨を枝に吊り下げさせた。


我が家が金持ちで、本当によかった。


その翌日、リヒルの熱はかなり下がった。それでも、両親が不在の現在、兄である自分が回復まで、しっかり世話しなければと部屋を訪れると、リヒルはさらなる難題をふっかけてきた。


「兄様、庭のあの辺りに、緑色の土管を植えてください。中に入れるくらい太いやつを、縦に」


「縦に……?」


疑問は尽きないが、可愛い弟の頼みだ。業者の尻を叩き、即日実行させた。

結果、公爵家の由緒正しき庭園には、金貨が宙に舞い、巨大なキノコが鎮座し、謎の緑の土管が直立する異様な光景が広がっていた。


(あれ? この既視感……?)


ようやく平熱に戻ったリヒルは、窓の外の「完成した庭」を満足げに眺め、最後にこう言い放った。


「あとは、亀がいれば完璧です」


生き物を飼うのは責任が伴うので俺が却下だと告げると、リヒルは不服そうにボヤいた。


「ちぇ……。あとはノコノコがいれば完璧なステージだったのに」


俺は、弟が一体何の世界を再現しようとしていたのか、あえて問いたださないことにした。


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BLゲームの主人公の兄に転生したけれど、弟が土管を最優先するので攻略どころではない件 @ikareru_futon

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