第十一話 ニートVSニート ~最悪のルームアタック~

「…………え?」


水滴が滴るジャージ姿の俺と、見知らぬ女。 部屋のドアが半開きになったまま、数秒の静寂が降りる。


先に口を開いたのは、女の方だった。 「……あんた、まさかID:RENNNN? そのカッコで? 何その背中のペットボトル」 彼女は俺の背中を指さし、心底呆れたような顔で言った。


「あんたこそ、何だよ! 人様の部屋に勝手に上がり込んで、不法侵入だぞ! てか、何で濡れてるんだって顔するな! ダンジョン攻略中にワープで戻ったんだよ!」 俺は激昂した。何年引きこもっていても、「自分の部屋に知らない奴がいる」という状況は耐えられない。


「ダンジョン攻略中にそのダサい格好で? へぇ、そのペットボトルもしかして魔法アイテム? いや、どう見てもただのゴミ……」 「ゴミじゃねえ! 『無限吸排・酸素供給タンク』だ! なんなら今すぐこの部屋を水没させてやるぞ!」


そう言いながら、俺は『リアリティ・パッチ』を起動しようとタブレットに指を伸ばす。 だが、アキラは怯むどころか、冷めた目で俺の全身を品定めしていた。


「……ま、いいわ。あんたが『名無しの引きこもり』なら話は早い。私が誰だか分かる?」 「知るか! 名乗れよ不法侵入者!」 「私は藤原アキラ。あんたがダマゾンで売ってる『魔石』の情報を解析し尽くした天才ハッカーよ。つまり、あんたの唯一の収入源を握ってる私に逆らうとどうなるか、分かる?」


「……は? 脅しか?」


瞬間、俺の目の前を白い閃光が走った。 アキラは俺の不意を突き、部屋の壁に飾ってあった『漆黒の木刀』に手を伸ばそうとしていたのだ。


「危ねえ!」


俺は『神速のサンダル』で一瞬にして間合いを詰め、木刀を掴む寸前でアキラの手を弾き飛ばした。 「俺の聖剣に触るな! ってか、なんで人の武器に手出すんだよ!」


「フン。その程度の反応速度、想定内よ。あんたが使ってる『パッチ』の解析データ、全部持ってるからね」 アキラは余裕綽々で笑う。 「その木刀も、背中のペットボトルも、元のデータはゴミ同然の『一般品』。私がパッチのプロテクトを解除すれば、ただの木切れに戻るわ。そうなったら、あんたの稼ぎも終わり」


「な、なんだと!?」


まさか『リアリティ・パッチ』のハックまで可能だとは。 引きこもり歴が長すぎて、リアルな人間関係における「交渉術」や「脅迫」という概念を忘れていた。


「いい? 私の要求はシンプルよ。『0号ダンジョン』の共有。それに、私が指定したアイテムを優先的にドロップさせること。さもなければ……」 アキラはニヤリと笑い、タブレットの画面を俺に向けた。 そこには、俺の「リアリティ・パッチ」アプリのソースコードらしきものが表示されていた。


「あんたの最強アイテム、全部ゴミにしてあげる」


「てめぇ……!」


俺は頭に血が上り、魔改造懐中電灯をアキラに向けて構えた。 「調子に乗るな! ハッカーがダンジョンに入って何ができるんだよ!」


「ふふ、できるわよ。私は『情報』で戦う。あんたの知らない世界が、ここにはあるの」


まさにその時。 クローゼットの奥から、『キィィィィン……』と、これまで聞いたことのない、高周波の奇妙な音が響いてきた。


「……なんだ、今の音?」アキラが眉をひそめる。 俺の『神域のヘッドセット』が、けたたましい警告音を発した。


《警告:未確認エネルギー体。地下4階から『領域侵犯』を開始。直ちに排除してください》


「……クソッ、よりによってこんな時に!」


俺はレーザー懐中電灯を構え、クローゼットの暗闇を睨みつけた。 そこから這い出てこようとしているのは、地下4階のボス、あるいはそれ以上の危険な存在の予感がした。


「おい、あんた。邪魔するなら、今すぐ出ていけ!」 「冗談でしょ? 今さら逃げるわけないじゃない。……面白くなってきたわね」


アキラは不敵に笑い、ノートPCを構えた。 二人のニートが、それぞれの「最強の武器」を手に、自室のクローゼットから現れようとしている「未知の脅威」へと対峙する。

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