第十話 水没エリアと招かれざるハッカー
【佐藤 蓮 視点】
地下四階に足を踏み入れた瞬間、生暖かい湿気と、足元を浸す水音が響いた。 「……水没エリアか。最悪だ」
かつて地下商店街だった場所は、今や濁った水で満たされ、暗い水面からは不気味な泡が立ち上っている。普通なら潜水服や魔法が必要な難所だが、俺には「身近なガラクタ」がある。
俺は『Reality Patch』を適用した二つの「装備」を取り出した。
一つは、二リットルの『空のペットボトル』を二本。 《パッチ適用:【無限吸排・酸素供給タンク】……効果:水から酸素を取り出し、高圧噴射による水中推進力を提供》 これを背中に背負い、俺は水の中へダイブした。
もう一つは、風呂場から持ってきた『黄色いお風呂のアヒル』。 《パッチ適用:【索敵機雷・アヒル隊長】……効果:水中の熱源を感知し、自動で追尾・自爆する。威力:水中機雷並》
「アヒル隊長、行け」
プカプカと浮かぶアヒルの頭を叩くと、それは「クワッ」と可愛らしい鳴き声を上げ、水中に潜っていった。 直後、水面下で巨大な影――水棲型の巨大魚モンスターがアヒルに襲いかかったが、次の瞬間。
ドォォォォォン!!
水柱が上がり、爆風と共に魚の死骸が浮き上がってくる。 俺はペットボトルの噴射を利用して、優雅に水中を滑走した。 「戦う必要すらない。アヒルを放流するだけの簡単なお仕事だ」
【藤原 アキラ 視点】
同じ頃。蓮が住む、ごく普通の賃貸マンションの前。 アキラはパーカーのフードを深く被り、手に持った高性能タブレットの画面を睨んでいた。
「……ここね。間違いない。電波の歪み、魔力の残渣、すべてがこの部屋に収束してる」
彼女が特定したのは、最上階の角部屋。 アキラは階段を駆け上がり、ターゲットのドアの前に立った。 表札には「佐藤」の文字。
「見つけたわよ、ID:RENNNN。あんたがどんな『神』だか知らないけど、現実はただのマンション住まいの引きこもりじゃない」
アキラは震える指で、インターホンのボタンを押し込んだ。 数秒の沈黙。……返事はない。
「居留守? それとも、今まさにダンジョンの中?」
アキラは口角を上げた。 「いいわよ。開けてくれないなら、こっちから『ノック』させてもらうから」
彼女はタブレットをドアの電子錠に接続し、自作のハッキングツールを走らせた。 「この世界の物理的な壁なんて、私には意味ないのよ」
【佐藤 蓮 視点】
地下四階のボスへと続く通路で、俺は『ダマゾン』の通知を受け取った。 いつもなら換金の通知だが、今回は違う。
《警告:あなたの『聖域(セーフティエリア)』に、未登録の個体が接近しています》 《管理者権限を行使し、遠隔防衛を起動しますか?》
「……はぁ!? 誰か来たのかよ!」
俺は慌てて水中から顔を出した。 母親なら警告は出ない。ということは、政府か、それとも――。
「クソッ、よりによってこんな時に!」
俺はボスの扉を目の前にしながら、緊急帰還スキル【マイルーム・ワープ】を起動した。 視界がホワイトアウトし、一瞬で湿ったダンジョンから、いつもの「自分の部屋」へと景色が切り替わる。
直後。 『ガチャリ』と、部屋のドアの鍵が開く音がした。
「――お邪魔するわよ。名無しの引きこもりさん?」
扉が開く。 そこには、ノートPCを抱えた見知らぬ女(アキラ)が立っていた。
そして、彼女の目の前には、「最強のジャージ」を着て、背中にペットボトルを背負い、手には「魔改造された懐中電灯」を握りしめた、濡れネズミ状態の俺が立っていた。
「……あ」 「…………え?」
世界最強の攻略者と、世界最高のハッカー。 二人のニートが、最悪のタイミングで、一〇畳の密室にてエンカウントした。
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