第八話 光の速さの退勤(ボス戦)

地下三階。暗闇エリアの最奥に、その「主」はいた。 広大なドーム状の空間。そこには、体長五メートルを超える巨大な『シャドウ・ギガント』が鎮座している。 実体のない闇が巨人の形を成し、周囲の光をすべて吸い込んでいる。


「……デカいな。でも、所詮は『影』だろ?」


俺は『神域のヘッドセット』の音量を上げた。 『Reality Patch』で改造したこのヘッドセットは、今や敵の弱点を強調して可視化する「ARゴーグル」の機能まで付与されている。


《解析完了:核(コア)は胸部中央。光属性攻撃に極端に弱い》


「よし、出番だ。一〇〇均の奇跡を見せてやる」


俺は右手に握った『高輝度LED懐中電灯(改・ハイパー・ノヴァ)』を構えた。 さらに、左手には『ダマゾン』でポチった新アイテム、『異世界産・反射鏡(凸面)』を装着している。


「グルオォォォォォ!」


シャドウ・ギガントが咆哮を上げ、巨大な闇の拳を振り下ろす。 その一撃は地面を抉り、衝撃波だけで周囲の岩を砕く威力だ。だが――。


「遅い。フレームレートが足りてないぞ」


『神速のサンダル』にパッチを重ね掛けした俺の機動力は、もはや重力を無視していた。 残像を残して拳を回避し、俺はギガントの足元から跳躍する。


「フルパワーだ。電気代は……魔石で払う!」


懐中電灯のスイッチを最大出力まで押し込む。 次の瞬間、俺の手元から太陽が爆発したかのような極太の光条(レーザー)が放たれた。


ドォォォォォォォォォン!!


真っ白な光が地下三階を埋め尽くす。 シャドウ・ギガントの闇が、光に焼かれて悲鳴のような音を立てて霧散していく。 コアに直撃したレーザーは、そのまま巨人の体を貫通し、背後の岩壁までをもドロドロに溶かした。


光が収まったとき、そこには主の姿はなく、ただ巨大な「影の欠片」と、これまで見たこともないサイズの魔石が転がっていた。


「……ふぅ。所要時間、三秒。記録更新だな」


俺はスマホを取り出し、ダマゾンのアプリを起動した。 ボスのドロップ品である『影の核』をスキャンすると、表示された額は驚きの「一、〇〇〇万円」。


「おっしゃ、ボーナス確定」


俺は即座に『買取』をタップし、ニヤける口元を抑えながらクローゼットへと引き返した。 戦うこと自体は別に好きじゃない。でも、こうやって「目に見える数字」が積み上がっていく快感は、ネトゲのカンスト作業に似ている。


「さて、今日は一千万稼いだし、お祝いにダマゾンで『最高級ゲーミングチェア』でもポチるか……」


俺が自分の部屋にワープで戻り、パジャマに着替えようとしたその時だ。


「――ねえ、蓮。また部屋で何かピカピカ光ってなかった?」


母親のノック音が響く。 世界を滅ぼしかねないシャドウ・ギガントを三秒で屠った英雄(ニート)は、慌てて懐中電灯をベッドの下に蹴り込んだ。


「あ、ああ! それ、プロジェクターだよ! 映画見てただけだから、入ってこないで!」


「……そう。あんた、映画ばっかり見てないで、明日こそはハローワーク行くって約束したわよ?」


「分かってるって!」


俺は冷や汗を拭いながら、高級ゲーミングチェアの購入ボタンを震える指で押した。 外の世界では「神」として恐れられている俺だが、この部屋を一歩出れば、ただの「ハローワークに行かされる男」なのだ。

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