第七話 暗闇の支配者と、窓越しの偵察者

【佐藤蓮 視点】


地下3階への階段を下りた瞬間、全身を包み込む完全な闇。 『神域のヘッドセット』が周囲の気配を感知するが、視覚情報は皆無だ。


「……これまでは腕力でごり押せたけど、そうもいかないか」


俺は『Reality Patch』で強化した『夜間探索用・高輝度LED懐中電灯(改)』のスイッチを入れた。 パッチを当てたことで、ただの懐中電灯は「直径2メートルの強力な光弾を放つレーザーライフル」へと変貌している。


ブォン!


闇を切り裂くレーザーが、前方の空間を焼き払う。 その光に照らされたのは、不気味に蠢く「シャドウ・スパイダー」の群れだった。 蜘蛛のような姿だが、全身が闇で構成されており、通常の攻撃は吸収してしまう。


「見つけたぞ、ゴミども」


レーザーの銃口を向け、俺は躊躇なく引き金を引いた。 閃光が走り、闇を纏った蜘蛛たちは悲鳴を上げる間もなく蒸発していく。 ヘッドセットが捉える「気配」を頼りに、俺は次々とレーザーを撃ち込んだ。


圧倒的すぎる。 もはや、これはモンスターを狩っているのではなく、俺の「城(部屋)」にある武器庫からレーザー砲を借りてきて、虫を駆除している感覚だった。 『ダマゾン』のポイントは着実に増え、欲しいアイテムは増えていく。 地下の暗闇は、俺にとって最高の遊び場であり、稼ぎ場となっていた。


【藤原アキラ 視点】


都心から少し離れた、家賃3万円のアパートの一室。 藤原アキラ、26歳。引きこもり歴5年。 彼女の目は、古いノートPCの画面に釘付けだった。


「クソッ……また政府に先を越された」


アキラは、天才的なハッキングスキルを持つ「元・裏社会のネトゲ廃人」だった。 彼女が世界に現れたダンジョンに目をつけたのは、その発生から数時間後のことだ。


【アキラの特殊能力:空間座標把握(システムハック)】


全世界の「ダンジョンの座標」をリアルタイムで把握できる。


ただし、政府が通信を遮断している「未発見・未登録ダンジョン」に限る。


さらに、そのダンジョンからドロップしたアイテムの「価値」と「効果」を解析できる。


彼女は、警察や自衛隊が封鎖するより早く、まだ「穴」が発生したばかりの公園や学校の校庭の座標を特定し、その情報をネットの裏掲示板に匿名で流していた。 目的は、混沌を煽ること。そして、自分が動かずに「情報」だけで世界を支配することだ。


だが、ここ数日。アキラは苛立ちを覚えていた。 政府が未だ捕捉できていない、「0号ダンジョン」と呼ばれる謎の空間が存在する。 その座標は全く特定できない。まるで、世界から隠蔽されているかのように。


しかし、その「0号ダンジョン」からと思われる、異常なドロップアイテムの出現頻度と破格の換金データが『ダマゾン』のサーバーログには残っていた。


『汚染浄化の魔石……一日に数個!? 馬鹿な、そんな効率、ありえない……』


アキラは、自分が解析した情報と、ネットで「神」と崇められている『名無しの引きこもり』の書き込みを照合していた。


「コイツ……まさか、座標特定が不可能レベルの『個人宅ダンジョン』を隠し持ってるのか?」


もしそうなら、彼女の「空間座標把握」の唯一の欠点――「隠蔽されたダンジョンは特定できない」という壁を、その『名無しの引きこもり』が越えていることになる。


アキラは、冷たい部屋でカップ麺を啜りながら、画面に映る『Damazon』のログを睨みつけた。 「――見つけ出してやる。『名無しの引きこもり』。あんたの秘密、全部暴いてやるから……」


彼女にとって、世界を救うことよりも、「自分より稼いでいる匿名ニート」の存在が許せないのだ。

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