消散柱


 俺は呆然としながら聞いていたと思う。

 

 連絡は友人の親からで、一週間に一度安否確認に友人がいつも連絡をしていたがそれが数ヶ月パッタリと連絡が来なかったので、心配で友人の住む家に入った所、リビングで座ったまま真上を見上げた姿で死んでいた…と泣きながら打ち明けられた。


 それはもう何も考えられなかった。


 葬式は身内でやるが昔から仲良かった君には来ていただきたい…と言われたので俺は出席する事にした。


 棺で眠っていた友人の顔は、とても爽やかな顔をしていた…気がした。


 いや、そう自身に言い聞かせていた。


 もしかしたら…本当は精神的に、きっと悶絶し苦悩し苦労し…そのまま何を思って死んだのか…死んだのだろうか…俺には分からないが友人の死に顔からは唯安らかに死んだのでは無い…と言葉は言わずとも感じ取れた。


 いや…これも気の所為だと思う。


 何もかも気の所為…死体は何も言わない。


 言葉も喋らず、棺に横たわりる友人はもう友人の身体(から)でしかない。


 脳も心臓も筋肉も神経も…動いていない唯の生物の死体…。


 それでも…人間として生まれた以上、感情的に涙を流してしまう。


 悲しい…この前楽しく飲んだ筈だったのに…。


 楽しく…違う、これも気の所為だ。


 俺は死体に自身に満足出来る答えを只々、脳内で完結させて納得してしまっている…それではいけないのだ。


 やはり…やはりあの時、お酒の席で思い詰めながら俺に話していた逆柱の話…これを解決しない限りは俺のこの情緒も、友人の無念でこの世に留まり続けてしまう筈である。


 だから俺はそのまま遺骨を友人実家に納める手伝いを打診した所、是非と承諾してくれたので俺はそのまま友人実家に付いて行く事になった。


 家に着くまでは車の中は無言で、俺は泣きながら遺骨を抱いている友人母の隣でじっとその光景を眺める事しか出来なかった。


 友人実家に着く…。


 俺は車からそそくさと出る。


 外見は少し広めな木造建築…としか言いようがない程、見た目は何処の一般家庭の一軒家と変わらない外見であった。


 了解を得て、入らせてもらうと事前に準備されていて大きな友人の笑顔の写真に俺も再び嗚咽交じりの涙を流してしまい、それを見た友人両親も泣き出しながら遺骨を納めてそのままリビングに案内された。


 俺は、泣きながらも心の中では漸く友人を悩し、精神を蝕んだ原因を拝めるんだ…と好奇心もいつの間にか芽生え始めていた…。


 リビングの扉を友人母が開ける。


 漸く…漸くなんだ…!もし本当に逆柱が往生していたら俺があいつの代わりに柱を蹴ってしまうかもしれない…もしそうなったら友人両親に申し訳ない…けど我慢ができない…そんな気持ちを抱え、開いた扉の先を目を強く見開いて、睨んだ。



 確かにリビングは広い…そこは友人の言う通りであった。


 しかし…中心には、逆柱どころか…柱すら無かった。


 俺は困惑した。


 全く無い…何処にもそれらしきものが無い…。


 周囲を見回しても柱はあるが隅っこにあるだけで、中心には柱が存在していない。


 一応、遠目ながら他の柱の板目を見たが特別友人の言っていた下に垂れ下がる模様にはなっておらず、上に伸びる様な模様になっている…という事はこれは普通の柱であるのは明白で、友人の言っていた逆柱は見当たらなく余計に狼狽し、混乱に陥ってしまっていた。


 友人母はテーブルに座る様に促してくれ、俺は困惑しながらも落ち着く為に座らせてもらってそのまま待っていると、お茶と茶菓子を用意してもらってそのまま友人の過去や思い出等を語り合った。


 すると徐々に話が、『確かに生活で気を病んでしまっていて私達親はただの疲れだと軽く思い込んで息子を支える体制を遅めてしまった…そのせいで息子をこの歳で殺めてしまったんだ…。』と後悔の念を抱いていて、どう詫びればいいか分からないと嘆き始めた為、俺は黙って聞くことしか出来ずにいると、少し経って友人父も合流したがやはり息子を死なせてしまった後悔に嘆き、結局俺は聞き手のまま時間を過ごす事となった…。


 話も終えると、友人母が友人の部屋でもし欲しいものがあれば持っていってくれ…と言われ、俺は遠慮したがと強く懇願されたので俺は友人の部屋へ向かう。


 友人の部屋は二階にあり、階段を登る際も一応柱を確認したが逆柱のようなものは無く…俺は余計に困惑しながらも友人母の先を追う。


 木の軋む音…階段の音が、無情に家に響く。


    ひた…ひた…ひた…ひた…


 いつもは気に掛けない筈の階段の木目が…段々と俺をこの先に本当に向かうのか…と睨んでいる様に見えてくる。


 これも気の所為…ただそう思い込んでしまうだけ。


 人の脳が錯覚を起こさせているだけ…人間の知能が高い弊害でしかない。


 何もかもそうだ。


 結局は脳内での錯覚、幻聴や自然音を人は原因を知らぬだけでやれ霊の仕業だ、やれ物の怪の仕業だと誤魔化して我々は済ませてしまっている…。


 『本当はごく当たり前に起きている自然現象なんだ…そんな物に恐怖する俺が臆病すぎるだけなんだ。』


 そう言い聞かせながら、階段を上がり友人の部屋の前に着く。


 友人母が扉を開けた。


       ぎぃぃぃぃ…


 蝶番の調子が悪いのか少し耳障りが悪い音が鳴る。


 床の木目が俺を睨む…気の所為…気の所為だ。


 友人の部屋はとっ散らかっており、友人母は「息子は片付けが下手で、いつも注意していたんだけど…今はこの乱雑な部屋が名残惜しくて片付けられないの…。」と話していて、俺は友人の意外な一面に少し驚きながらもお言葉に甘えて何個か遺品を貰い受けることにした。


 しかし…それにしても本やノートが沢山散らばっている。


 大体は、漫画等よく見かける本ばかりだったが一つ風変わりなタイトルの付いたノートに視線が向いた。

  

       【逆柱について】


 ノートをめくると、そこには逆柱についての情報を淡々と書かれていた。


 【建物に逆柱を付いてると不吉を招く…が、逆柱を敢えて付けることにより未然に崩壊を防ぐ呪(まじな)いを掛けていた。もしかしたらこの家も呪いの為に敢えて付けているのかもしれない…だが親はそんな物は無いと誤魔化す。あんな堂々と中央にあるも関わらず何故下手に誤魔化すのか…俺はもう耐えられない。日々の疲れも相まって気が狂いそうだ…辛い…けど俺の唯一の心の拠り所である学校と俺と付き合ってくれる友人達のお陰で何とか精神を保っていられる…。必ずあの逆柱を親に撤去させる様ノートに逆柱の恐ろしさについてまとめる事にする。】…と。


 その後は、逆柱や呪いについてをまとめてあり俺は淡々とページ内容を眺める事しか出来ず…。


 よく見れば妖怪図鑑や資料が所々に置かれてあって友人は、学生時代から逆柱に取り憑かれていたのか…と改めて認識させられてしまった。


 俺はノートと少しの本だけ貰い、友人実家を後にした。


 家に帰宅し、ノートを眺めながら結局友人は本当に逆柱を見ていたのか…それとも何か幻覚を見てしまっていたのか…それともあの両親が撤去したのか…。


 しかし撤去後などは見当たらなかったし、リビングをリフォームした様な感じもしなかった。


 だけど中心に何か無いと違和感がある気もしていて、俺は余計に混乱に喫していた。


 だが…どうであれそれを知り、見ていた友人はこの世にはいない。


 結局逆柱は存在していたのか…もしかしたら何か要因があってそれが切っ掛けで脳がいないはずの存在を映してしまった…のだろうか。


 死人に口なし…友人は何を見て何に狂ってしまったんだろうか…何か真実なのか分からないまま、俺は自宅の木目を全て隠す作業に取り組んだ。


 

 


 


 


 

 


 


 

 

 

  

 


 


 


 


 




 


 

 


 


 


 

 


 


 


 


 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世、妖(あやかし)おらず ー往生逆柱ー 銀満ノ錦平 @ginnmani

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画