第11話 王都が救いを求めて『遠見の魔法』を使った結果、俺たちの混浴温泉(パラダイス)が放送されてしまった件

 王都、王城の作戦会議室。


 そこには国王、教皇、そしてアークライト伯爵(俺の親父)や元婚約者たちが、悲壮な顔で集まっていた。


「……報告します。騎士団の奮戦により、なんとかゴブリンの撃退には成功しました。しかし、被害は甚大です……」


「ええい、たかがゴブリン相手に何をやっておる!」


 国王が机を叩く。

   だが、誰も反論できない。都市結界が機能不全に陥っている今、王都は裸同然なのだ。


「……くそっ、あの『遊び人』め。出ていくなら結界のパスワードくらい置いていけというのだ……!」


 親父が歯噛みする。


   彼らはまだ、自分たちの無能さを認めず、全てを俺のせいにしていた。


 そんな中、教皇がおもむろに口を開いた。


「……陛下。こうなれば、彼らを呼び戻すしかありません」


「彼ら?」


「Sランク冒険者のレオン殿とソフィア殿です。彼らの力があれば、この窮地も凌げるはず。……噂では、北の『奈落』へ向かったとか」


「しかし、連絡を取ろうにも……」


「国宝『遠見の水晶』を使います。これならば、対象の魔力を探知し、その場の映像を映し出すことができます。彼らに王命を伝え、強制召喚するのです」


 おお、とどよめきが起きる。


   それが、絶望へのカウントダウンとも知らずに。


 ◇


 数人の宮廷魔導師が魔力を注ぎ込み、巨大な水晶が輝き始めた。


「――繋がります! 座標特定、奈落のダンジョン深層!」


「おお……見ろ、映るぞ!」


 全員が固唾を飲んで水晶を見つめる。  彼らの予想では、そこは地獄のはずだった。


   薄暗い洞窟、魔物との血みどろの死闘、飢えと乾きに苦しむ英雄たちの姿……。


 だが。

   水晶に映し出されたのは、真っ白な湯気だった。


『――あはははは! こりゃいい! 生き返るなぁ!』


『ちょっとレオン! お湯をかけないでよ!』


 楽しげな男女の声。  湯気が晴れると、そこには信じられない光景が広がっていた。


 広大な岩風呂(露天風呂)。  青く透き通った湯が並々と湛えられ、水面には酒を載せた桶が浮いている。


 そこに浸かっていたのは、タオル一枚のレオンと、肌も露わなソフィア。


   そして、美しき聖騎士アリシアと、見たこともない亜人の美少女たち。


 中央で優雅に腕を組んでいるのは――追放されたはずのディランだった。


「「「は……?」」」


 会議室の時間が止まった。


『ほら、ディラン様。あーんしてください』


『おいアリシア、近いぞ。……ん、美味いなこれ』


『でしょう! ドラゴン・テールの燻製です!』


 画面の中のディランは、美少女たちに囲まれ、伝説級の食材をツマミに酒を飲んでいる。


   背景には、ライトアップされた美しい庭園と、豪奢な洋館。


 地獄? 死闘?  違う。そこにあるのは、王族さえ知らない『極上の楽園』だった。


「な、な、な……」


 元婚約者の令嬢が、震える指で水晶を指差す。


「なによあれええええええっ!? なんで!? なんで深層で温泉に入ってるの!? しかも、あのアリシアって泥人形、なんであんなに肌がスベスベなのよおっ!」


「ば、馬鹿な……あれはドラゴンの肉か!? 市場価値で金貨一万枚は下らない希少部位だぞ!?」


「それを……おやつ感覚で食べているだと……?」


 王都では水さえ配給制になりかけているのに。


   彼らは湯水のように湯を使い、国宝級の肉を食らい、笑い合っている。


 その圧倒的な『格差』。


   そして、自分たちが捨てた男が、その中心で王のように振る舞っている事実。


 屈辱と後悔で、全員の顔がドス黒く歪んでいく。


「……許さん! すぐに呼び戻せ! その資源は国のものだ! その肉も、その温泉も、すべて没収して……!」


 国王が叫んだ、その時だった。


 映像の中のディランが、ふとこちらを向いた気がした。


『……ん? なんだ、この不快な視線は』


 ディランの冷徹な瞳が、水晶越しに会議室の全員を射抜く。


「ひっ……!?」


『チッ。王都からの覗き見か。趣味の悪い連中だ』


 ディランが空中に指を走らせる。


『管理者権限。不正アクセスの遮断(ブロック)。……二度とこっち見んな、バーカ』


 パチン。


 彼が指を鳴らした瞬間。


 パリィィィィィィィンッ!!


 国宝である『遠見の水晶』が、内側から爆散した。


「ぎゃあああああああ!?」 「め、目が! 目がぁぁぁ!」


 飛び散った破片と魔力の逆流により、会議室は阿鼻叫喚の地獄と化した。


 ◇


 深層、露天風呂。


「……どうしたんだ、ディラン? 空中で指パッチンなんてして」


 レオンが湯船に浸かりながら尋ねてくる。


「いや、なんでもない。ちょっとした『スパムメール』が来てたから、着信拒否にしといた」


 俺は肩まで湯に浸かり、夜空を見上げた。


「……さて。邪魔者も消えたし、宴会の続きといくか」


「さんせー! ルナ、のぼせるまで入るー!」


「ふふ、背中を流しましょうか、ディラン様?」


 騒がしくも温かい夜。  地上とのパス(繋がり)を完全に断ち切った俺たちは、本当の意味での自由(フリー)を手に入れたのだった。


(第11話 終わり)

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